第6話 Open sky dungeon game 勝負


「次の挑戦者はお前さんたちか! さぁどっちを選ぶ? 攻略か阻止」


 向かいの檀上に立つイケメン親父風の男性の大きな声が会場に響く。

 以後イケ親父と呼ぶ。


「なら攻略で」


 少女の仇を取ると言った以上冒険者で攻略挑戦してこそ意味がある。


「ならルールは簡単。お前さんたちは俺が作ったダンジョンを三回のチャンスで一度でも攻略できれば勝ち。俺はお前さんたちを三回止めれば勝ちだ!」


「オッケー。それで構わない」


「なら勝負と行こうか! 少年少女よ!」


 元気の良い声が会場全体に響き渡る。

 それを合図に野崎と田村の身体が特殊ダンジョンステージに転送される。




 待機スペースから出た瞬間から攻略するOSDGは攻略者と阻止者にMP三十が至急される。このMPを使いRPGゲームで言う所の魔法やスキル後はオブジェクトを召喚して攻略or阻止を行う。攻略者はこれに加えてHP百が支給されこれがなくなったら攻略失敗。阻止者は+αのMP七十が支給されMPを使い切れば事実上阻止する手段を失い負けとなる。制限時間は一回の攻略に付き十分。阻止者は攻略者を倒さなくても十分以上足止めしてゴールに辿り着かせなくても勝つことができる。尚プレイヤーの初期移動速度は一。今回使用されるダンジョンは迷路型の空が開放的なテンプレートをアレンジした物のように見受けられる。


「それでちょっと聞きたいんだけど」


「なに?」


 既に小型のカメラが二人を自動追尾しライブ映像を流しているのここでの会話も大衆に聞こえている。

 そこで野崎はさりげなく田村に近づいて周りに聞こえないようにそっと耳打ち。


「D? それとも……やっぱりEぃぃぃ……ッ!?」


 野崎は言葉を言い終わる前に地面に倒れた。

 股に走った衝撃の強さに目から大粒の涙が零れる。

 田村の膝蹴りが急所に入ったから。

 言葉にできない苦痛はマゾ性質のない野崎にとって……。


「ウォォォォ……」


 ご褒美とはならない。

 後悔のない痛みではあるが、危うくゴールデンボールがクラッシュして試合前に人生が終わる所だったと反省する。

 男として昔から気になる事実確認は諦めることにした。


「最低」


 奥歯を嚙み締め生と死の境を彷徨う男の汗は尋常じゃない。

 長距離走を終えた選手並みの汗が全身から零れ落ちるのは演技じゃない証拠。

 追い打ちをかけるようにして。

 田村の低く刺すような鋭い声が哀れな男に突き刺さる。


「ふざけてないで。集中して」


「うぉぉぉぉ……」


「私たちがしていた時と違って使えるスキルが増え……まだ痛いの?」


「おぉぉぉぉ……」


「そこまで強くしたつもりはないけど?」


「Ohoooo……イエェェェスぅぅぅぅ!!!」


 魂の叫びで答える野崎は四つん這いになっている。

 お腹ではなく股を抑えて。

 制限時間は既にカウントダウンに入っており急ぎたいところではあるが、予期せぬハプニングに田村の足を早速引っ張る野崎の回復を待つためセーフティーゾーンの待機所で新しく増えたスキルリスト見て静かに待つ。


 ――攻略者専用スキル・アイテム――


 手榴弾:攻撃力五 MP消費五 持続時間十秒


 火炎弾:攻撃力十 MP消費十 持続時間十秒


 ハンドガン:攻撃力一・弾十発 MP消費五 持続時間一分


 ショットガン:攻撃力一~三・弾十二発 MP消費六 持続時間一分


 マシンガン:攻撃力一・弾百発 十/秒発 MP消費八 持続時間一分


 スナイパーライフル:攻撃力十・弾六発 MP消費十 持続時間一分


 ロケットランチャー:攻撃力二十・弾一発 MP消費十 持続時間一分


 加速:速度五割上昇 MP消費五 持続時間二十秒


 超加速:速度八割上昇 MP消費十五 持続時間一分


 ザ・ワールド:攻撃力一・弾十発 MP消費五 持続時間一分


 ――阻止者(ダンジョンマスター)専用兵器――


 守護番人:攻撃力二・体力三 MP消費十 持続時間三分 移動速度一


 自動追尾守護番人:攻撃力二・体力三 MP消費二十 持続時間三分 移動速度二


 戦車:攻撃力十五・弾三発・体力十二 MP消費三十 持続時間三分 移動速度二


 戦闘機:攻撃力五・弾三十発・体力十 MP消費四十 持続時間三分 移動速度三


 烈風:攻撃力二・弾六十発・体力十 MP消費六十 持続時間三分 移動速度四


 零戦:攻撃力一・弾三十発・体力五 MP消費五十 持続時間二分 移動速度五


 …………。

 ……………………。


 と、ざっと見た感じで最近プレイヤーによく使われているスキルは過去のプレイヤー履歴からすぐにわかった。


「なによ……零戦って……せめて旧世代機らしく型落ちしててよ……ったく」


 ぶつぶつと文句を言いながら各兵器のスペック表を開き素早く脳内にインプットしていく田村のカーソル操作は手馴れていて一切の無駄がない。

 その間も「おぉぉぉぉ」隣から聞こえる魂の叫び声が徐々に小さくなっていることにも気を回して。



 ――共通兵器・魔法――


 ヒール:回復三 MP消費十 使用制限三


 貫通弾:攻撃力+五・弾一発 MP消費五


 ヒール弾:回復五 MP消費十 使用制限一


 爆裂弾:攻撃力+四・弾一発 MP消費五


 人気のある魔法と銃弾はこの通りだ。

 二人が有名になる前によく遊んでいた時とは細かい所が変わっている。

 田村は頭から古い知識とは別に新しい知識を入れて比較検討していく。


「ふ~ん。攻めて来ないと思ったら若人共面白そうなことやってんな!」


 ダンジョンマスターであるイケ親父の声が聞こえてきた。

 別に地面が揺れる振動音は戦車だろうか?

 既に配置されたと考えると……そこにも注意を払う必要があると判断する。


「うるさい! 余計なお世話よ!」


 ゆっくりと起き上がる影が田村の視界の端に映る。


「そうだぜ……アンタはまず自分の心配をした方がいいぜ?」


 そう答えたのはようやく復活した野崎。

 田村の戦意に応えるようにしてゴール地点を見て微笑む。


「ハンデはこれくらいでいいだろう。ルール上最短ルートで五分以上かかるダンジョンは作れない。逆を返せば五分あれば理論上はミスさえしなければクリアできるからな。へへっ」


 強がりかハッタリか。

 制限時間は残り五分十三秒。


「……ほぉ、で?」


 一瞬のアイコンタクトをスタート合図に野崎が走り始めダンジョン攻略を始める。

 少し遅れて田村が後に続いて追いかける。

 すぐに右と左の選択肢。

 どちらかはいずれ行き止まりになる道。

 だけど迷うなど言語道断。


「そこ左!」


「おう!」


 背中越しの返事で前だけを見て走る野崎。

 一人じゃこんなに勇気を持って突っ走ることはできない。

 OSDGは攻略人数が増えるほど有利になると言う点もあるが『SOCIUS』がやっていることはそんな単調で誰にでも真似出来ることではない。


「五秒後左角から戦車来るよ!」


「任せろ!」


 指をスワイプしてスキルリストを表示する。

 そこからMPを消費して手榴弾を手に取る野崎と同じくスナイパーライフルを装備する田村に迷いはない。


「砲塔に手榴弾がチェックイーンでーす!」


 ドンッ!


 砲塔から弾が発射されるより早く手榴弾が爆発し砲塔を内側から破壊する。

 ダンジョンの壁はちょうど戦車の上に人が立てば丁度目線の高さになる。

 野崎は迷わず進み、田村は戦車を足場にダンジョンの壁をよじ登り幅一メートルほどの壁の上を駆け抜けながら野崎をゴールに誘導する。


「バカが! そんなことしたら戦闘機に狙い撃ちされてジ・エンドだぜ?」


 戦闘機にロックオンされればMPを使わずに逃げ切ることはほぼ不可能。

 移動速度が三倍も速い戦闘機が視界に入ると同時動きを止めスコープを除く田村は落ち着いていた。


「しばらく直進して! その後三つ目の曲がり角を右!」


 危険を省みず野崎にルートを伝える田村は信じていた。

 スコープで戦闘機をロックオン。

 戦闘機も田村をロックオンして発射態勢に入る。


「お礼に緊急参戦の俺から送る手榴弾! 受け取ってくれよ~HAY!」


 戦闘機と田村の間にふとっ地面から投げられた三つの手榴弾。

 田村は狙っていたかのように一つの手榴弾に狙いを定め引き金を引く。

 銃弾は手榴弾を撃ち抜き爆発し残りの手榴弾にも火を付け拡散。

 衝撃波と炎が戦闘機の羽を破壊し制御不能による墜落で一瞬で勝負が付いた。


「よし!」


 ふざけるのは一瞬。

 手榴弾を投げ終わると同時に野崎は全力で走り始めていた。

 実は大抵のプレイヤーは限られたMPを使い罠をどこに設置するかというと無意識にゴールに繋がる道に置くことが多い。 

 なぜなら――行かれたら困るから。

 その真相心理を解読しているに過ぎない。


守護番人ガーディアンちゃんはスルー!」


 守護番人の一撃をギリギリまで引き付け躱す野崎。

 ゆっくりとしたモーションで斧を振り上げて降ろすだけの攻撃など慣れればさほど恐くない。

 頭脳戦においては田村の得意分野。そして体力勝負やいざという時の勘や直感力を必要とする物においては野崎の得意分野とお互いの長所を最大限に活かす攻略が『SOCIUS』の真骨頂だと大衆の目に見せつける。


 罠がある道=正解のルートだと考えた田村はダンジョンを見渡しながら凹凸で見えない場所のルートを脳内で補完し修正していく。


「最後は真ん中のルート!」


 三又の最後の分かれ道も迷わず走り抜ける野崎の前に最後の試練が訪れる。

 野崎が侵入したことで予め設置されていた自動追尾守護番人の目が赤く光り起動する。残り時間十秒。立ち止まる暇はない。自動追尾守護番人の奥に見えるゴールまでは残り五十メートルあるかないか。


 一度大きく深呼吸をして足に力を入れて正面からの突破を試みる。


 最後のMPを使い手榴弾をポイっと空中に置くようにして投げる。

 自動追尾守護番人は守護番人と違い移動速度が二。

 それに比例して攻撃速度も二と速い。

 自分の倍速で動いて飛んで来る攻撃を先ほどのような慣れと度胸の正攻法で躱す運動神経を野崎は持ち合わせていない。

 もし運動神経抜群だったら今頃彼女一人や二人ぐらいいただろうと心の中で悔やみながら――。


「覚えておきな。凡人だから何度も失敗して自分なりの攻略法を見つけるんだ。それが出来た時のゲームってとても最高に楽しいんだぜ☆」


 無機質の機械自動AIに自分の武勇伝を語り不敵に微笑む。

 上半身と下半身を真っ二つに分けるように飛んで来る斧の一撃は速い。


「そうだ……俺だけじゃ避けられなかった。そして……チェックメイトだ」


 ドンッ!


 斧による重たい一撃が野崎の身体を切り裂くと思われた瞬間。

 それは正に絶妙なタイミングで。

 斧が軌道を修正できない瞬間、手榴弾は飛んできた弾丸に撃ち抜かれ爆発。

 野崎の身体をゴール地点の方向へ吹き飛ばす追い風となる。

 今さら体力が百から八十二に減ったぐらい気にしない。

 仮に五十メートル六秒だとするならギリギリでクリアできる。

 だが自動追尾守護番人はその半分の時間で五十メートルを駆け抜けることができ、道中再度野崎に攻撃することができる。

 最後は博打の勝負になるか?

 気合いと根性による自己ベスト更新の勢いで全力で走る野崎の背後に自動追尾守護番人がやって来る。最後の瞬間まで諦めない男は背中に危険を感じても前だけを見て走る。

 そう――タイムリミットまで後少し。


「残念だったな。二回戦に持ち越しだぜ!」


 予想外の展開に元気が消えていたイケ親父に笑みが戻る。


「あぁ、言い忘れてたよ」


「なにを言い忘れてたんだ?」


「凡人の俺の足だとこの時間なら本当にギリのギリで間に合うか間に合わないかってことだよ!」


「バカめ! 俺が言いたいのはこういう事だ!」


 振り上げられた斧が振り下ろされたことを影で察知した野崎はようやくイケ親父が言いたいことを正しく理解した。

 そして確信した。

 この勝負は決着が着いたと。


「もし風が読めたら? 弾道と呼ばれる物がもし計算式で導きだせたらどうだ?」


「なにが言いたい?」


 イケ親父は気付いている。

 既に野崎のMPが零であることに。


「もう小細工できない事実に気付いて頭のネジでも緩んだか?」


 挑発的な態度は演技。

 注意をこちらに向けさせたい男による。


「アンタがさっき使った戦闘機や今俺を殺そうとしている守護番人は全てAIによる自動計算の元システムとして動いている」


「当然だろ? これはゲームだ」


「そうゲームは計算でも攻略できるんだよ」


 ドンッ!

 一発の銃弾が音速の速度で発射された。

 空気を切り裂く音と共にやってくる銃弾はただの銃弾じゃない。

 野崎のMP五を使い発射された弾は斧が振り降ろされる軌道と重なり切断される。

 直後爆裂弾が火を噴き野崎の身体を吹き飛ばし加速させる。


「な、なんだと!?」


「へへっ、だから言っただろ? チェックメイトってな!」


 斧は爆裂弾が放った衝撃波で軌道がズレ空振りに終わりそのまま決着が着いた。

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