第4話 The dungeon 二人の決意表明
――――……。
「うぅ……うーん……」
意識が現実に戻る。
フレグランスキャンドルが放つグリーンの香り。
それは木々や草花土壌などが発する自然をイメージさせ、爽やかでリラックス効果がある。
強い心臓の鼓動が平常運転に戻り始める。
そのまま一度大きく深呼吸しながらゆっくりと目を開ける野崎。
「まさかトラウマ抉られるとは……」
――断るか?
そう思い田村に相談しようとするが。
「……アイツなんなの……絶対目にも見せてやる」
と、野崎に遅れ目を覚ました田村はなぜかやる気満々に見える。
負けず嫌いな性格が良くも悪く働いてしまったのか。
ポケットから取り出した薬を生暖かくなり炭酸が弱くなったコーラで飲み干す田村に色々とツッコミたくなったが、気づかない振りをするのが優しさだと思いスルーする。野崎は田村から女の子が定期的に飲む薬とだけ聞いていて深くは知らない。ピル? と思っているだけに下手に聞かない……ん? とすると相手が既に……止めておこう。
現実逃避はこれくらいにして現実と向き合う。
お互いに心を落ち着けたい気持ちは同じらしく無言と静寂の時が訪れる。
――。
――――。
二人の静寂で落ち着いた時間に終止符を打ったのは。
ピロンッ♪
メールが届いた音だった。
「さっきの男からか?」
「もう来たの?」
気になるのか身体を引っ付けて画面を覗き込む田村。
しかし届いたメールは。
二人にとって意外な物だった。
【おみごとだった。Articulusシリーズのテストプレイ協力感謝する。先ほど自己紹介を忘れていたな。私の名は大空大和。以後お見知りおきを】
マスコミを嫌いメディアに露出を避けるため、関係者以外はその素顔を知らない。
まさかあんなおっさんだったとは……。
天才的ゲームデザイナーとして知られるセントラルパーク株式会社の実質的な頭である。野崎とは対照的な過去を持ち、学生時代は良好な学生生活を送り周囲から天才と称賛され人望も厚いとされている。だからだろう……密かに心の奥底で憧れる存在でもある。
スクロールして続きを読む。
【六月十四日(金)ExtraArticulusシリーズを公開する。その前のデモプレイヤー映像として今最も人気がある君たち『SOCIUS』に攻略する姿を映像として記録し公開したい。だが単なる協力では君たちにメリットがないだろう。そこで――】
こちらの心を見透かしたように淡々と綴られた文章は。
野崎と田村の心を鷲掴みにするように甘い誘惑へと誘う。
【懸賞金百万を用意した。獲得方法は簡単。PV作成に同意し我々が用意する対戦相手と本気でダンジョン攻略で勝負してくれればいいだけ。悪くないだろう?】
改めて内容を確認するが漠然としているゲームの詳しい内容は?
勝負の内容は?
勝負の時間は?
勝負の判定基準は?
「どう見ても誘われてるな……」
初対面なのに馴れ馴れしい文章は『SOCIUS』を研究してだろうか?
だとしたら、かなり研究されていると認めるしかないだろう。
『SOCIUS』がどういった状況下なら勝負の舞台に上がるかを正しく把握している。
当然対戦相手とやらがセントラルパークが用意したエキストラだとするなら……。
そりゃ不公平だ、と鼻で笑い。
どこの世界でも不公平は存在し完全な平等は存在しない。
【プロは効率の良い攻略しかしないから見ていて正直飽きる。だが君たち『SOCIUS』は違う。舞台はこちらで用意した。そうだ君たちがずっと憧れていた天才たちが集まる舞台だ。弱者が弱者として散るか弱者でありながら弱者としてその存在を証明するか。君たちはどちらを選ぶ? はたまた弱者として逃げるか? 返事を待っているよ、人々の憧れとして芽吹いた若き『SOCIUS』】
人のトラウマを抉り、怒りを買い、誘惑、と人の心を弄んだ。
もし本当の大空大和ならあの場でダンジョン崩壊したのも最初から仕組まれていたことなのか? と疑問を持つ二人。
凄腕エンジニアがダンジョン崩壊ギミックを誤作動させるとは考えにくい。
だとすると、なにか理由があるはずだ。
そう……理由が。
「なぁ……どうする?」
「え?」
目の奥で燃える闘志。
即ち送り付けられた挑戦状の答えは既に二人の中では決まっていて。
「いいのか?」
「うん」
息を揃えて声にする。
「「逆にこの状況を利用してぎゃふんと言わせてやる!」」
意思疎通を行い、その旨を大空大和に送るのであった。
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