第3話 ExtraArticulusシリーズの招待状
ダンジョン内の空気が一段と冷え重たくなる。
肌を焦がすような感覚に野崎と田村がお互いの手を握り何があっても離れ離れにならないように備える。二人の手汗と僅かに震える手先がリンクするのは相手の
『どうだったかね? 私が開発したArticulusシリーズは?』
「面白かったけど?」
『あはは。そんなに身構えないでくれ。これはゲームだ。おっと忘れていた』
白衣を着た中年の男はポケットに手を入れてなにかを探し始める。
『これをあげよう。これはExtraArticulusシリーズの特別招待券であり懸賞金が出る特別攻略戦でもある。弱者は埋もれ、強者だけが輝く、戦いだよ。もっと言えば弱者は参加する権利も居場所すらない舞台だ!』
アイテムを受け取るとアイテムリストに自動収納された。
だがたった一言で。
野崎と田村の嫌な過去を掘り起こさせる。
勉強が苦手でどうしてもテストで良い点数がだせなかった野崎。
他者との触れ合いより一人の時間を大切にしたい性格で日頃から大人しかったことから小学校中学校と当時虐めの対象となった。
唯一仲がよかった田村は逆だった。当時から可愛くてクラス問わず学校全体で男子のアイドル。だけど田村は女友達は作っても男友達とは常に一線を置いていた。なのに野崎とは二人で遊びに行ったり学校でも一緒にご飯を食べたりと自分の心に正直な人間だった。
嫉妬そんな生易しい言葉では表現できない。
だけど。それが野崎がイジメの対象になった原因でもある。
苦痛に耐えられなかった男は不登校になり一人ゲームの世界に逃げた。
追いかけるように罪悪感を感じた女も不登校になりゲームの世界に迷い込んだ。
弱者はイジメられると当時身を持って知った男はどれだけ有名になって活躍しても心の中に劣等感を抱えている。
この世にルール等などなく。
自己都合による承認欲求が優先される世界。
自分の思い通りにならないことを否定し、邪魔な人間を集団で排除し自分たちにとって居心地の良い空間へと変えていく場こそが学校。
つまり一種の陣取りゲームみたいなものだ。
そこで友好的な手段の一つが虐め。
なぜなら多くの先生たちは見てみぬ振りをして助けない。
大抵仕事が忙しいから、ずっと見れないから、知りませんでした、などと言い訳をして目の前で見た時だけ注意をして終わり。それが一番楽で利己的だからだ。
少なくとも野崎は学校に対してそう言ったネガティブなイメージしかない。
「俺たちが参加する保証はないぞ?」
『逃げるのか?』
ピクッ。
自然と力が入った手は拳を作り震える。
「ちっ……知ったような口を聞きやがって」
田村は今の野崎が恐いと思ってしまった。
家族以外誰も知らない秘密――軽度の男性恐怖症。
心を開いて信頼関係がしっかりと築ければ普段はなにも問題ないのだが、幼い頃に親戚の叔父さんに強く怒鳴られ叩かれた記憶が掘り起こされ無意識に繋いでいた手を離してしまう。力では勝てない相手の威圧的な態度が恐いのだ。それに近い物でもやはり恐いし過敏に反応してしまう。
結局のところ田村は建前とは別に唯一安心できる男友達が小さい頃からずっと一緒に居た野崎刹那であったというわけだ。現に
イジメられた男と精神疾患を持つ女。
それが『SOCIUS』の本当の顔。
「理紗?」
「う、うん……大丈夫。気にしないで」
口では強がっても身体は正直で小刻みに震えている。
生まれたての小鹿のよう。
世間的にはまだ認知されてない――中々受け入れて貰えない――社会的には弱い立場。
頼れる人も少なく、打ち明けられる相手も慎重に選ばなければならない。
まさに底辺的な地位で必死になって見つけた居場所。
世間には全部隠し仮面を被らないと存在すら認めてもらえない窮屈な世界で唯一自分の本領を発揮できる
「私たち以外の参加者は誰?」
『詳しいことはまだ言えない。だが敢えて言うならセントラルパーク社が管理するセントラルダンジョンランキング入りを果たした者。つまり君たちはプロを謳っているがそれは自称に過ぎない。君たちの相手はわが社が正式に実力を認められたプロというわけだ。どうかね? 相手にとって不足はないだろ?』
「俺たちがそいつらと勝負する理由は特にないはずだ」
『あるさ。才能ある者たちが集う世界に憧れているのだろう? だから魔宮ダンジョンのトラップにワザと引っかかりミスを繰り返すことで攻略法を見つけた。違うかね? 公認プロ禁制のダンジョン攻略実に見ていて興味深かったよ』
「…………」
言葉がでないのは当時は十時間以上の探索をしており疲労で注意力散漫で普段なら引っかからない落とし穴に嵌ったから。
そこで偶然視界を上に向けた時にとても小さな違和感ある壁を見つけたのが成功に繋がった、という裏話が実はある。
『まぁいいさ。私の目は誤魔化せないさ』
ダンジョン全体にノイズが走る。
再び崩壊を始めた。
三人に残された時間は長くないだろう。
ゴゴゴゴゴゴゴッと地響きのような音は天井が崩れている音。
このままでは瓦礫の雨に打たれ無残な下敷きになり危険だと本能が叫ぶ。
『おっと、タイムリミットが来たようだ。詳しいメールを後ほど送るとしよう。ではまた会おう!』
男が指をパチンッと鳴らすと野崎と田村の意識が遠くなり強制ログアウト。
――二人の意識は暗転した。
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