第7話 学園の管理者

迷宮から帰還した。帰り道も魔物に襲われたが問題なく対処出来た。迷宮にも慣れてきた感じがするな、とはいえ油断大敵だが。


螺旋階段を上がって、俺は受付の横に位置する、素材を売れる売店に向かった。人が並んでいて、全員が迷宮帰りのようだった。


迷宮では数回しか冒険者を見かけていないのだけど、他の冒険者はおそらくクエストが中心なのだろう。お金は稼げて、名声を得られる。さらには敵もそこそこの強さなら、クエストを選ぶのもわかる気がした。


さて俺の順番が回ってきた。売店にいるのは髪の生えていないスキンヘッドの男だった。筋肉隆々で、限界まで鍛え上げた身体が特徴的だ。ボディビルダーみたいな美しい筋肉をしている。


「おう、坊主。今日もソロで無事だとわな!」

「あはは。キラービーに追いかけ回されて散々だったよ」


会話をして、俺は台座にドロップアイテムを置いていく。爪に牙、更には羽なんて物もある。レアドロップはなかったけど、初心者にしては上等の成果だろう。


「……15000マニーってところか」

「あれ、めっちゃ高いね」

「キラービーの羽が綺麗な状態だ。それに命張った坊主が取ってきたドロップアイテムだ、本当はもっと価値を付けてやりたいんだがな」


絶望的に似合わない眼鏡を掛けて、リューガさんは言った。そのままお金を手渡してくれた、俺は財布に入れて頭を下げる。


地図などの道具もこの人におすすめされて購入した物だった。売店の店員リューガさんは、見かけにやらないほど優しい性格をしている。


慈悲深いというか、なんというか。ゲームではいなかった人物だけど、こういう人が店員だと安心してドロップアイテムを売れるな。


「あの、アルク様」

「あっ……受付嬢さん?」


宿屋に帰ろうとする俺を呼び止めたのは受付嬢の女性だった。胸元に付いている名札にはカナタと書かれている。突然呼び出して、何の用だろうと思っていると何かを手渡される。


これは……。


「ら、ラブレターですか!?」

「違います。王都総合学園の、学園長がアルク様に渡してほしいと」

「……学園長?」


どこか高級そうな紙を開いて、中身を見てみる。中には『有望な新人冒険者、アルク様。どうか、王都総合学園までお越しくださらないでしょうか。時刻は明日の昼頃。どうかお願いします』と書かれている。


最後には学園長、リーシュ・アルタインよりと書かれている丁寧な手紙だった。


学園長が俺を呼び出した?アリスが通うだろう学校の責任者が俺を?


疑問が浮かび上がるが、とりあえず話は聞いた方が良さそうだ。明日の昼に学園に向かってみるとしよう。


「カナタさん、ありがとうございます」

「いえ……それでは失礼します」


カナタさんは素早く受付に戻った。相変わらず仕事に生きる人のようだ。俺はギルドを出て、暗くなりかけている空を見て王道に向かった。


人通りは変わらず、飲み屋の光が鮮やかに彩られていく。そういえば朝昼と飯を食っていなかったな、どこかご飯を食べに行こう。そう思って、辺りにある店を観察する。


お金はあるので、とりあえず美味しそうな店に向かった。その日はお酒は飲まずに普通に食事を楽しんで、一日を終えた。


⬛︎


朝日とともに俺は目覚めた。とりあえず起き上がって、外出の準備を始める。手紙には昼頃と書かれていたけど、早めに言って用事を終わらせたい。それに純粋に気になるっていうのもある。


学園長、リーシュ・アルタイン。アリスを学園に誘ったとされる人物、アリスが危険な目に会うとお助けキャラとして手を貸してくれるキャラ。


その強さはお助けキャラとして、めっちゃ優秀。学園を管理する学園長なので、当たり前なのかもしれないけど。


容姿は……。


と、とりあえず他にも情報がないか、朧気な記憶を必死に掘り返すけど、それぐらいしか出てこなかった。


俺のアドバンテージとも呼べる前世の記憶。それは十五年の記憶によって、薄れている。ゲームの話と現実では違うことも多いため、あんまり頼りには出来ないんだけどな。


「……王都総合学園、ね」


主人公のアリスはもちろん。この国の王子とか、帝国からやってきた皇太子やら。本当にさまざまな生徒が入学する。


学園の施設などのレベルの高さに、生徒達の実力を図るイベントが多くある。そのためか卒業する生徒の実力は高い人間が多い、施設も最高の物が置かれているため、素晴らしい環境で成長できるのである。


平民でも実力さえあれば関係ない。学園は実力主義だ。そのため学園に夢を見て、勉強とか剣技を頑張る子供も多いと聞く。


まあ、入学して卒業出来たら人生薔薇色だろうからな。


俺は王道を進みながら、手紙をポケットに入れる。念の為刀も装備しているけど、不審者として扱われないだろうか。ちょっと心配だが、俺はしばらく歩き続けた。


長い道のりを歩いて、俺は建造物が目に入った。


「──でっか!?」


総合学園。つまりさまざまな分野を学べるため、学園は広いことはある程度知っている。だけど、これは予想の遥か上をいった。


視界一面に収まりきれないほど巨大。いったいいくらほどお金が使われているのか、想像もできない。


と、とりあえず学園の門に向かう。王国騎士が門を守ってセキュリティも万全のようだ。全身に白い鎧を着ている、相当良さそうな装備だな。


「何のようだ?」

「えーと、学園長様から呼び出しを受けまして……これなんですけど」


警戒してくる門番の人に対して、手紙を渡す。それを見て門番は中身を確認する。そして次の瞬間には青褪めた。


「が、学園長様がお呼びの方だと。ど、どうぞお入りください!」

「あ、ありがとうございます」


そこまで学園長は権力がある人らしいな。この門番の人から畏怖の念を感じた。さて、俺も学園長の姿を見れることが非常に楽しみだ。


てなわけで校舎には入るんだけど、ここは土足でいいらしい。日本人の感性が残ってるせいで、少し違和感があるけどな。


一階から物凄い広さだった。学園にいる生徒は覚えきれてるのだろうか、さすが優秀な生徒だけが入学する学校だな。


「お、あった」


学長室。それを見て俺は軽くノックする。すると女性の声でどうぞ、と返事が返ってくる。扉を開いて、中に入った。


「……なるほど、貴方がアルクさん。体つきから努力が垣間見えますね。失礼、私の名前はリーシュと言います。よろしくお願いします」


エメラルドのような髪色のツインテール。そして圧倒的な小さい身体。誰がどう見てもロリっ子である。


椅子にちょこんと座り、胸を必死に張って大人を演じている。俺は思わず、哀れみの籠った目で見つめてしまった。


「……わ、私の身体が何かおかしいです!?」

「い、いえ……予想より小さいな、と」

「よ、予想より小さい……!?」


ガーン。そんな効果音が聞こえてきそうなほど、目の前の少女は落ち込んでいる。少し涙目になってるけど、実際に小さい。幼稚園児に混ざっても違和感がないレベルだな。


「こ、こう見えても成人してますからね!」

「……合法ロリ?」

「な、なんですか、その言葉。私を馬鹿にしてることだけはわかります……!」


『七色の冠』でも人気のキャラクターだった、リーシュ・アルタイン。身長は目測だけど140もないだろう、容姿は妖精のように可愛い。さすが乙女ゲームのキャラだな。


そういえば、なぜ俺は学園長に呼ばれたのだろう。そもそも会ったこともないし、数日前に王都に来たばかりの俺を知るルートがない。


「ゴホンッ。……あなたを呼んだ理由について説明いたしましょう。単刀直入に言いますと、学園に入学してほしいのです!」

「え!?」

「……事の経緯を説明します。あれは……」


学園長はどこか遠い顔をしながら、ゆっくりと話し始めた。事の始まりは王様からの呼び出しだったそうだ。


「王様の保有するアーティファクトに魔力を検知する物があるんです。悪魔やら魔物などが、王国に侵入しないために常時展開されているものです。それに光の魔力の反応があったと報告されました」


思い出すように話す学園長。アーティファクトとは簡単にいえばチート道具だな。迷宮にも眠っているらしいけど、その価値は凄まじい。見つけたら一生暮らしていけると言われている。


王国には災害などに対応するための宝物庫があって、そこにはアーティファクトが保管されてるって話だ。ちなみに首飾りはアーティファクトには分類されていない。


というかアリスはもう目覚めてたんだな。俺は魔力とか全く感じなかったんだけど、いつ目覚めていたんだろう。


考えてみると、リリスさんの回復力が凄まじかったのはアリスの魔力の影響かな。ゲームでも作った料理にさまざまなバフが付与されてたし、聖女は凄まじいな。


「光の魔力は聖女だけが持つことが出来る。聖女が目覚めたということは、魔王の復活が近づいているということです」


遥か昔に聖女によって魔王は封印されてきたと伝えられている。そのため聖女の誕生は魔王の復活が近づいていることの証明だった。


魔王が復活すると、魔物と魔獣が活発になって敵が一気に強くなる。そのため魔王が復活してからが、この世界の本番だった。


俺の目的は冒険者として名前を残すこと、ロマンを追い求めること。そしてゲーム以上のハッピーエンドを目指すことが、最後の目標だった。


ハッピーエンドとは、魔王の完全討伐。そして迷宮の踏破が挙げられる。


魔王は分かるけど、迷宮攻略なんて必要あるのか。ということだけど、迷宮の最下層には魔王討伐に必要なアーティファクトがあるんだ。正確には、それを獲得するために攻略する必要がある感じだ。


「聖女の居場所を突き止める大役を任されて、私は必死に探しました。そして見つけたのはいいのです、問題はそれからでした……」

「問題……」

「学園に入学できない。そう聖女様は言いました」

「えええっ!?」


学園の入学がゲームの始まり。アリスが学園に編入しないと、話が始まらないのだけど。どうして学園に入学できないと、彼女は言ったのだろう。そう考えていると、学園長は俺に指を指した。


「聖女様はあなたに恩を返すまで、離れたくないと言っていたんです!」

「えええ……恩って……」


アリスの中で母親であるリリスさんの存在がデカいのは知っている。初日に出会った時はほとんど無表情だったのに、リリスさんが元気になって凄い笑顔になってたからな。


とはいえ、俺にそこまで恩義を感じなくてもいいのだが。というか学園に入学してくれることが一番の恩返しなのだが!


「学園に入れば寮生活になります。冒険者のあなたとは会う機会が少なくなる。なので私は言いました、アルクさんも学園に入学させますと」

「……は?」


それで最初の話に戻ってくるわけか。学園に入学することで得られるメリットは、主に三つある。


一つ目は多種多様の授業。剣技に魔法に、あらゆる授業を選択して受けれる。


二つ目は攻略者、または重要なキャラとの接触。魔王討伐に必要な人間は、学園に存在する。


三つ目。これは単純だけど、迷宮攻略のためのメンバー集め。百階層の迷宮には量もそうだけど、質が一番大事なのだ。


凄まじい戦闘能力を秘めている仲間がいれば、心強い。


「もちろん、冒険者を兼業しながら学園に通えますから!」

「……問題はそこじゃないんです」


目覚めたばかりの聖女の力は、まだまだ弱い。これから一気に成長するんだけど、そのためには攻略者と重要キャラがアリスに力を貸して迷宮に挑んで貰わないといけない。


学園に入学して、原作改変が起こったら話にならないのだ。


それに俺自身の力不足っていうのもある。重要キャラ達の力に、俺は遠く及ばない。努力はしても才能が足りていないのだ、だから迷宮に潜ってレベルを上げているんだが……。


「……学園長。俺は迷宮攻略を目指してます。学園なんて通えません!」

「アルクさん。これは強制なのです。聖女を学園に入学させることは絶対必要なこと。国のため、世界のためなのです!」


よく見ると目の下には隈が出来ていて、凄まじい迫力を生んでいた。思わず後退ってしまうほど、彼女は恐ろしかった。


「もう、三日も寝てないんです。お願いです、入学してください」

「いや、そう言われても!」


疲れ切った学園長に同情する。でも学園に入学は絶対したくないのだ。俺はどうやって乗り切ろうか考えていると、学長室の扉が開いた。


振り返るとそこには美人が二人いた。雪のような白髪の少女と、灰色の完成されたような美貌を持った女性。


「……こ、こんにちは?」


覚醒した聖女アリスと、その母親であるリリスさんがそこにはいた。


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