【#10】再会

堕血街だけつがい・第四区】


 それから更に堕血街の奥へ進んだ時、ふとアリアが足を止めて言った。

 

「!! 待ってください!!」


 アリアは首にかけた十字架タリスマンを手に取り、俺とイフに向けて嬉しそうな顔で言ってくる。


「近くに聖職者の力を感じます!! もしかすると、これは師匠のモノかもしれません!!」


「……分かった。とりあえず行ってみよっか」


 こうして、アリアの後ろをついて行く事になった。


 彼女が向かう先は、堕血街だけつがい・上層にそびえる大きな古城。


 ここは街を統治していた貴族が住んでいた場所で、堕血街だけつがいの中で一番高い場所にあたる。


 俺達三人は古城へと繋がる大階段を駆け上がっていく。


師匠せんせい!! 今行きます……!!」


 その途中、アリアがそう呟くのが聞こえた。


 しっかりと例のタリスマンを握りしめながら、まるで神に祈るような声音こわねで。


 はたして彼女の祈りは届くのか。その答えが階段の先にあった。


◇◆◇◆◇


 階段を登り終えると、古城の前にある巨大な庭園へ辿り着いた。


師匠せんせい!! 師匠せんせい!! どこにおられますか!?」


 夜の闇の中で必死に叫ぶアリア。


 ……その直後、庭園の奥から雷のような大声が聞こえた。


「ヴァァアアアアアアアアア!!」


「!! 怪物!?」


「グゥォオオ……!!」


 庭園の奥から現れた、堕血だけつで変異したモンスター。


 その見た目は上半身は人間、下半身は蜘蛛の八本脚を持った化け物で……人間の方はが武器に用いる大鎌を手に持っていた。全長5メートルほどの巨体がこちらを見下ろしていた。


 その怪物を目の前にしたアリアは、絶望したような表情で涙を流す。


「そんな……ウソです!! どうしてこのタリスマンが反応しているのですか!? まさか……"この怪物が師匠せんせい"とでも……!?」


 そう。残念だが、それが"真実"だった。


 このモンスターが堕血街だけつがいのボス、である。


 アリアがこの堕血街に来た時には、既にバルケイン司祭は"怪物"と化していた。


 つまり、最初から全て手遅れだったのだ。


師匠せんせい!! バルケイン師匠せんせい!!」


 必死に否定するように、震えた声で言うアリア。


 しかし、彼女の声はもう届かない。


 バルケイン司祭は堕血だけつに操られるまま、変形した蜘蛛の足でこちらへ突進してくる。


「ヴィアアアアア!!!!」


 そして──怪物はその手に持つ大鎌を両手で振り上げた。


 その凶刃きょうじんは、かつての弟子へと容赦なく襲いかかる。


「そんな……!? そんな……!?」


 アリアは──。それが原作における結末ルートだった。


 ──だが、今回は違う。その運命シナリオ、変えてやるさ……俺が!!


「てりゃぁぁあ!!」


 俺は大鎌のやいばを食い止めるように、ロングソードで攻撃をガードした。


「!? ロゼルタさん……!?」


「アリアさん!! 戦うの!!」


 俺はアリアをかばいつつ、敵の攻撃が届かない場所へ避難させて言う。


「きっと今は辛いかもしれない!! でも、せめて師匠せんせいがこれ以上被害を出さないように、今ここで倒す!! それが……彼をとむらう唯一の方法だと思う!!」


「ロゼルタさん……!!」


 そして、アリアは泣くのをやめた。


 彼女は溢れた涙を片手で拭いながら、新たに決意を固めたように言った。


「……そうですね。"変異した汚染者は非情の心で対処せよ"。師匠せんせい、あなたの教えを実行する時が来たようです……!!」

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