【#9】終末世界メシ

 そうして俺は広場で焚火たきびを起こし、すぐに晩飯の調理にかかった。


 まずは寝かせたデスペラードボアの前で、斧を振りかぶり──。


「えぇ〜い!!」


 ドスンッ!! 思い切って一発いく。


 そこからは肉の解体作業……子供にはとても見せられない光景である。


 まぁ、俺としてもグロくて嫌なんだけど、他にやってくれる人もいないからね。そこはしょうがないんだが……。


(げっ!? またドレスに血がついた!? あとで洗っとかないとな……)


 そうやって解体を進めていくこと数分──ようやく下処理が終わった。ふぅ、なかなかいい汗かいたな。


 よし、そろそろ仕上げといくか。


「イフちゃん、聖油ホーリー・オイルを貰えるかな?」


「かしこまりました」


 イフは頷くと、目を閉じて呪文を詠唱をはじめる。すると──。


「──転送完了しました。どうぞ」


 イフの手元に出現するビン。それは求めていた聖油ホーリー・オイルの入ったもの。

 これで死体を焼き払えば、堕血だけつを完全に取り除くことができる。


「ありがと〜♪」


 今のはいわゆる"アイテムボックス機能"ってやつだ。


 イフは拠点にあるアイテムをこちらに転送する魔法を覚えており、これによってプレイヤーは持ち物を気にせず旅ができる。

 

 ゲームをしている時は当たり前に感じていたが、こうやって目の前で見るとそのすごさを実感する。


 そんな彼女に感謝しつつ、俺は聖油ホーリー・オイルを受け取った。そして、それを肉全体に振りかけて──。


「今夜は丸焼きで~~す♪」


 鉄串で刺したお肉を、焚火たきびの上で豪快に焼いていく。

 聖油ホーリー・オイルの香ばしい匂いが周囲に立ち込めて、なんだか空腹感が更に刺激される感じ。


 あぁ! 早く食べたい……!!


「完成〜〜♪」


 俺は鉄串を火から引きあげて、隣で興味深そうに見ていたイフへ聞いた。


「イフちゃん、欲しい?」


「……いただきます。このような肉を食べるのは初めてですが」


「ハイ、どうぞ」


 イフへ一本あげると、俺はその流れで一応アリアにも聞いた。


「じゃあ、アリアさんは──」


「いりません!?」


「あはは、ですよねー……」


 そりゃそうなるか。まぁ、余った分は俺が食べればいいか。


 とりあえず、もう我慢できないし食べてしまおう。


「いただきま~~す♪」


 アツアツのお肉に一気にかぶりつく。


 その途端、口の中で弾ける肉汁。少しクセのある豚肉の味であるが、聖油ホーリー・オイルによって獣臭さが中和されている。


 これはいい。こんな美少女(未成年)の身体でもなければ、酒の一杯でも飲んでるところだ。


 それから俺は隣の彼女にも聞いた。


「イフちゃん、どうかな?」


「……美味しいです」


 モグモグ頬を膨らませて言うイフ。小動物みたいで可愛いな……。


 そんな光景に癒されていると──。


「…………」


 アリアの視線に気づいた。彼女は無言のまま、俺達の方をジーっと見てくる。……これはひょっとして。


「あの、やっぱり食べたかったりする?」


「そ、それは……!?」


 アリアはすぐに首を振ろうとしたが、少し恥ずかしそうに消えそうな小声でつぶやく。


「い、一本だけいいですか……?」

 

「いいよ~♪」


 やっぱり食べたかったらしいな。人間、好奇心は誰にでもあるものである。それはたとえ聖職者であっても。


 俺は笑みを浮かべつつ、アリアに鉄串を一本渡した。


「お……おぉ……!!」


 ドキドキしたような表情で肉を見つめるアリア。そのまま散々迷ったあげくに一気に一口いった。すると──。


「!! 美味しいー!!」


「でしょう?」


 ゆるんだアリアの表情に、俺はついホッコリしてしまった。

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