【#8】猛獣注意

【堕血街・第三区】


 それから俺達は探索を続け、街の中心部に近い第三区まで来た。


 かつてここは街の交易所だったエリアで、崩壊した露店達が長く放置されたままそこに残っていた。


 アリアは周囲を警戒するように目を向けた後、振り返って俺達の方に言ってくる。


「ふぅ、ここには怪物達はいないようですね。ロゼルタさん、イフさん。少し一休みしましょうか?」


 そんなアリアの提案に対し、俺はストップをかけた。


「いいえ、ちょっと待ってください。すぐに終わらせますので」


「「??」」


 俺は二人から離れて、近くに捨て置かれた馬車の方へ向かった。


 その馬車は大型のもので、後ろには格子状の檻が乗っている。ただ一見すると、何もないように思える場所。


 だが──。


「ヴォァァアアアアアアアアアアア!!」


「!!」

 

 夜に鳴り響く獣の叫び声。


 その後、おりが吹き飛ぶように破壊されて、中から巨大な獣が飛び出してくる!!


「ブルルルルルルッ!!」

 

 檻から現れたのは、イノシシの怪物"デスペラードボア"。


 イノシシとは言うものの……そのサイズは大熊ほどの大きさ。しかも、堕血だけつによって変異していて、頭部が異形と化していた。


 そのデスペラードボアは真っ黒な目でこちらを睨みながら、その巨体を使って勢いよく突っ込んでくる!!


「ロゼルタさん!? 危ない!?」


 後ろから聞こえるアリアの悲鳴。


 確かに周りから見れば、突然の奇襲ではあるが──俺にとってはだ。


「それー♪」


「ヴァギィィィイイイイイイイイ!?」


 デスペラードボアの頭部に、メイスの一撃をぶちこむ。


 手応え十分!! 完全に致命的な一撃クリティカル・ヒットってヤツだ!! 


 いくら耐久の高いデスペラードボアいえども、その一撃で絶命へと至る。


(よし、また一つ勘が戻ってきたかな)


 やりがいのある戦闘に満足していると。


「ロゼルタさん……!?」


 恐る恐るといった様子で声をかけてくるアリア。彼女は驚きの表情で言ってくる。


「今の待ち伏せ、よく気づきましたね……!? もしや予知の力でもお待ちになられてるのですか!?」


「い、いやぁ〜!? そんなんじゃないよー!?」


 もちろん”攻略を覚えていたから”なんだけど。


 でも、やっぱ素直に言えるわけもなく。ここはもっともらしい言い訳をしておこう。


「さっきここへ近づいた時、僅かに獣の声がしてね。それでどこかに潜んでるんだろうな……と思ったら案の定だったの」


「なるほど! のんびりしてるように見えましたが、実はしっかり警戒していたワケですね!! 流石はロゼルタさんです!!」


「ま、まぁ、そういうこと!! アハハ……」


 ふぅ、やれやれ。ごまかすのも一苦労だな。


(さて、そろそろ腹減ってきたな……)


 せっかくちょうどいい肉も手に入ったし……。


「それじゃ、このイノシシ……食べよっか♪」


「た、た、食べるぅ〜〜!?」


 アリアは"信じられない"といった顔で否定してくる。


「このモンスターをですかぁ!? 冗談じゃありませんよ!? だって、そもそもそのモンスターは堕血だけつで汚染されているでしょう!?」


「あー……」


 そっか。この世界だと一度汚染された肉を食べないのは常識だからな。


 でも……やっぱり元プレイヤーである俺としてはぜひとも食べたいんだ!!


「大丈夫大丈夫!! 死体になった動物は、よく血抜きしてから”聖油ホーリー・オイル”で焼く!! そうすれば、ちゃんと食べれるから♪」


「え、えぇ〜〜〜〜!? 本気ですか……?」


 それを言うアリアの表情は、今すぐ気絶しそうなくらい青ざめていた。

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