【#4】堕血街へ

 それからイフは教会の隠し通路を開け、地下室へと案内してくれた。旅に出る前の準備のためだ。


「さて、あなたには汚染者達と戦うための武器を与えましょう。今から渡すモノは特に汚染者に有効なモノです」


 イフがレバーを引くと、地下室の壁がゴゴゴゴ……と開く。すると──。


「うわぁ~~~~♡」


 剣・槍・斧・メイス……定番の武器達が現れた!! 


 そう、これこれ!! テンション上がる〜!!


「まずはこちらから一つお選びください」


「どれにしよっかなーー!? どれも好きすぎて迷っちゃう〜〜♡」


「…………」

 

 なんだか冷ややかな目で見てくるイフ。


 そ、そんな目で俺を見るなぁ!? そりゃちょっと舞い上がっちゃったかもだけど!!


(さて、問題はってことだ)


 そう、ゲーム的な制約で貰える初期武器は一つだけ。


 一応、ここで取れなかった武器は他に獲得の機会もあるのだが、やっぱり最初から色んな武器で遊びたい気持ちもある。そこで……。


「あのー、イフちゃん。お願いがあるんですけど〜?」


「なんですか?」


「そこの武器、……?」


 すると、イフは無表情に首を振って言う。


「無理です。さっき”一つ”と言ったでしょう。神人カミビト様には一つだけ与えるというおきてなのです」


「……そこをなんとか!!」


「だから、無理だと言っています」


「それじゃ、一生のおねがい!! そのぶん絶対頑張るから!!」


 両手を合わせて懇願してみる。


 そうして粘りに粘ってみると、イフは「ハァ……」と大きなため息をついて言う。


「……今回は特別ですよ」


「やったーーーーーー!! イフちゃん、好き好き好き〜〜〜〜♡」


 うぉぉぉ!? まさかの突破できた!?


 やっぱそうなんじゃないかと思っていだが、この世界ではもあり得るらしい。つまり、無限のアップデートができるってことだ!!


 おぉ、ますます楽しみになってきたぞ……!!


◇◆◇◆◇


 こうしてちゃんと武器もゲットして準備完了!! そう、これからが本格的な冒険の始まりだ!!


「よーーし!! さっそく出発しよーーーー!!」


「ハイ。お供いたします」


 イフを後ろに連れて、教会の裏にある扉を開けた。すると、その先にあったのは──。



「ギャォォオオオオオオ!!」「アァ……アァ……!!」「ヴォォオオオオオオオオオオオオ!!!」

 


 黒い血に塗れた街、『堕血街だけつがい』。

 

 ここは堕血だけつの汚染によって放棄された街であり、かつては栄えていたであろうヨーロッパ風建築の廃墟が並んでいる。


 もう街に人間の姿はまったく見えず、残っているのは堕血に操られたモンスター達だけだ。


 そんな絶望的な光景を前に、俺は──。

 

「おぉ~~!! 懐かしい~~~~~~~~♡」


 ついを上げてしまった。


 胸の内に最初に訪れた時の思い出がよみがえる。あまりにも終末感のある景色にドキドキさせられて、この先に何があるのか予想もつかなかったモノである。


 そうやって夢中になって眺めていると、隣のイフがいぶかしげに俺の方を見てきた。


「”懐かしい”……? ロゼルタ様、あなたはなはずでは……?」


「あっ!? そ、そう!! 前の世界と記憶が混乱しちゃってた~~!! アハハ~~!!」

 

「?? まぁ、いいでしょう。とにかく先に進みましょう」


「うん!」


 それから俺とイフは『堕血街だけつがい』の中へと入っていく。真っ黒な堕血に汚れた街道を進んでいると。


「グギッ!!」「ギャギャ!!」「ギィアアアアア!!」


「おっ!! ダークゴブリンだ!!」


 最初のザコ敵・ダークゴブリンが三体現れた!!


 どんよりと濁った緑色の身体に、真っ黒に染まった目。その目は堕血だけつに汚染された者の証である。


 もう奴らは完全に理性を失っており、今は堕血だけつ傀儡くぐつと化している。


「イフ!! どこかに隠れててくれ!!」


「……わかりました」


 非戦闘要員であるイフは、近くにあった空タルの中に避難した。


 おぉ、ちょこんと顔だけ覗いてて可愛い──なんて、なごんでる場合じゃなかったな。


「さて、やろうか!!」


 俺は銀のロングソードを手にして、戦闘態勢に入った。


 ダークゴブリンは俺を取り囲むように、素早くステップしながら間合いを詰めてくる。そして──。


「「「グギャァァアアアアアアアアアアアア!!」」」


 同時に飛び掛かってくるダークゴブリン達!! これが初心者を無限に殺してきた連携である!!


 だが──!!


「ハイッ!!」


「「「!?」」」


 ダークゴブリンが飛び掛かってくる直前に、横にロングソードを振るう。そして振り切った瞬間、俺は確かな手応てごたえを覚えた。


(……決まった。完璧なカウンターだ!!)


「「「グァ……!?」」」


 黒い霧となって絶命していくダークゴブリン達。とりあえず、この三体は撃破。だが──。


「キィヒヒヒヒヒ!!」


 笑い声と共に、背後から飛び掛かってくる別のダークゴブリンが!!


 待ち伏せからの襲撃──当然ながらこれも初心者殺しだが、何周も攻略した俺にはもう通じない!!


「おりゃぁ!!」


「ゴガッ!?」


 背中に置いていたメイスで、奇襲に来たダークゴブリンを粉砕。それから隠れていたダークゴブリン達もゾロゾロと出てきた!!


 面白い……この街への”歓迎会”ってワケだ!!


「ふふっ♪ いいよ? 全員まとめてかかってきて!!」


「「「「「ギシャアアアアアアアアアアアア!!!」」」」」  


 あらゆる方向からゴブリンの大群が押し寄せてくる!!


 間違いなく最初から殺しに来ている量の敵!! そんな奴らに俺はこの身体一つで立ち回っていく!! 


 このロゼルタの身体──見た目はか弱い少女であるが、繰り出す一撃はなんとも破壊的な威力だった。


 そういう風にキャラクリしたので当然ではあるが、自分の身体で実感するとますます嬉しくなってくる。


 そして、気づけば……ダークゴブリン達は全滅していた。


「た、楽しいぃ~~~~~~~♡」


 血だらけになった剣を掲げ、勝利の雄叫びを上げる俺。


 やがて、タルの中から出てきたイフが、そんな俺へボソッと言ってきた。


「あの、ロゼルタ様」


「ん? なにー?」


「……しばらく私の”不死の力”は必要なさそうですね。教会でお留守番していましょうか」


「そ、そんなこと言わないで~~!?」


 ……確かに”死にゲー”としては間違っているのかもしれない。

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