【#3】死にゲー的ヒロイン

 カースの墓所を抜けて、まっすぐ道を進む。


 その先に見えたのは、廃墟となっているヨーロッパ風の教会だ。


 それを見つけた途端、俺は安堵あんどした気持ちで言った。


「おー!! あった!! 【神人カミビトの教会】~~!!」


 この【神人カミビトの教会】はいわゆる”拠点”にあたる。


 また神人カミビトとは”デドディス”におけるプレイヤーの呼称であり、別世界からここへ流れついてきた……という設定になっている。


 さて、本来の流れだとグラディウスに殺されて城の中へ直接リスポーンするのだが、今回は倒してしまったので外から入らないといけない。この辺のくだりは原作と同じだろう。


「よっ、と」


 入り口の両開きの扉を押すと、ゴゴゴゴゴ……という音と共に開いた。この音がたまんないんだよな。


 古城の中はてられた教会となっており、もう祈られることも無くなった神々の像が壁際に並んでいた。


(うわぁ、再現度たっか……)


 俺はそのクオリティの高さに感動しながら、美術館で鑑賞するときのような気持ちでゆっくり進んで行った。


 やがて、奥の『祈りの間』へとたどり着くと、月明かりに照らされた円の中に真っ赤なローブを纏った少女が屈みこんでいた。


「お待ちしておりました。新たなる”神人カミビト”様」 


 その少女がこっちを向いて一礼する。


 髪は白銀のロングヘアー。金色に輝く二つの瞳。


 その見た目こそは16歳くらいの少女であるが、喋り方は淡々としていて人間らしさが少し欠けていた。……だが、それが逆に可愛い!!


 そんな彼女は”デドディス”のヒロインの一人だ。その名は──。


「私の名はイフ。神人カミビトつかえる祈女イノリメです」


 簡単に言うと、祈女イノリメはプレイヤーの従者だ。彼女は俺の目を見て聞いてくる。


神人カミビト様、あなたもあの怪鳥・グラディウスに殺されてここまで来たのですね?」


 そんな原作ではに対し、俺はちょっと気まずげに答えた。


「いや……。ついでに言うなら、もうグラディウスは倒してきたよ!!」


「……え?」


 少女──イフは一瞬困惑した表情を見せたが、すぐに元の表情に戻って言う。


「そうですか。次の神人カミビトはなかなかやれそうですね。期待しています」


「!! うぉーーー!? ありがとうーー!! がんばりま~~す!!!」


「????」


 俺の返事に若干困った様子の様子のイフ。おっと、つい舞い上がりすぎてしまったか……。


「ところで、神人カミビト様。あなたは自分の使命を覚えておられますか?」


「あぁ、えっと……」


 本当は完璧に暗記しているんだが、一応この世界との知識差がないか確認するために聞いておこう。


「んーっとね。まだ目覚めたばかりで……記憶が混乱してるみたいなの。できれば、教えてほしいかな~って」


「わかりました」


 イフは頷いて、教会から一冊の本を取り出して説明する。


「今、この世界は『堕血だけつ』と呼ばれる病に侵されています。体内に『堕血だけつ』を取り込んだ者は肉体・精神ともに変異してしまい、他の生者を襲う化け物となるのです」


 イフの見せてきたページには、真っ黒な血のような液体が描かれている。それと、堕血だけつに侵された人間の末路も一緒に。


 要するに、これがモンスターの生まれている原因ってワケだ。


 堕血だけつに汚染されたモンスターに殺された者は、堕血の力で蘇ってまた別の者を襲う。


 ……そう、この世界ではそれが日常なんだ。


「その堕血だけつに侵されない希少な存在……それがあなた方”神人カミビト”なのです」


 イフは本を閉じながら、俺の方を見上げて言う。


「そして、その神人カミビトたるあなたには、この世界から堕血だけつを完全に消し去るために私と共に"浄化の旅"に出てもらいます」


 よしよし、この辺の設定に違いはなさそうだ。


 なるべく周りに違和感をもたれないように、この世界に馴染んだ演技ロールプレイを心掛けないとな。


「さぁ、神人カミビト様」


 そう言って、イフは右手を差し出した。彼女の掌には聖なる紋章が描かれている。


「不死の契約をしましょう。あなたの名を教えてください」


 来た! 契約シーンだ!!


 不死の力は契約した者を何度も蘇らせることのできる力であり……言ってしまえば、彼女のおかげで”死にゲー”が成立しているワケだ。


「わたし名は……ロゼルタ。ロゼルタ・R・バーンドレッド」


「かしこまりました、ロゼルタ様。──これであなたとの契約が結ばれました。ともに旅を始めましょう。世界からけがれを払う旅を」


「うん!! よろしくね、イフちゃん!!」


「……それにしても、ここまで旅を楽しみにする神人カミビトは初めて見ました。少し変わってますね、ロゼルタ様は」


「そ、そうかな〜?」


 やっぱ変には思われてるらしいな……うーん、まぁいっか。

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