【#2】チュートリアル=ボス戦

【カースの墓所】


「うぉ……めっちゃリアル……!!」


 剣の刺さった墓場の中を、一人でまっすぐ歩いていく。


 満月に照らされた、数多あまたの墓が広がる一本道。


 そんな怖そうな場所をか弱きゴスロリ少女──”ロゼルタ”と化した俺が一人で歩くのは、他人はたから見れば不安になるような状況だろう。


 だが、むしろ俺は感動を覚えていた。


(今、間違いなく”デドディス”の世界を冒険している……!!)


 様々な恐怖に満ちた死にゲーの世界。


 もちろん最初に転移する時はビビったが──いざ現地に来てみると実家のような安心感があった。


 そりゃ自分でもおかしい感覚だと思うが……本当にそう思うんだから仕方ない。


(おっ、着いた)


 そして、一本道の突き当りまで来た。そこに広がっているのは、たくさんの墓に囲われた円形の広場。


 当然、これも見覚えのある場所だ。この先へと進めば、いよいよ”チュートリアル”が始まる。


(……行くか)


 俺は一度深呼吸してから、広場の中へと踏み込んだ。すると──。


「クァァアアアアアアアアアアアアアア!!」


 上空から鳴り響く金切かなきり声。満月を背にして、その巨大な影は降りてくる。


「クルルルルルル……!!」


 全身が骨だけで構成された怪鳥かいちょう──名を【グラディウス】。


 ”デドディス”において最初に遭遇するボスにして、ゲームの”チュートリアル”となっている。


 もし初心者がこういった状況に遭遇した場合、(流石にチュートリアルのボスなら弱いだろ……)と思うだろう。


 だが──


「ギィィアアアアアアアアアアア!!」


「うおっ!? あぶねっ!?」


 猛スピードで突っ込んでくる怪鳥・グラディウス。


 ほんのわずかな予備動作を察知してどうにか避けることができたが、もしその癖を知らなければ瞬殺だっただろう。


(どうやらゲーム内での知識は信用して良さそうだな……)


 さて、敵は圧倒的な強さのボス。初期状態で武器もない。当然、勝たせる気など毛頭ないシチュエーションだ。


 こんな状況が揃えば、察しのいいゲーマーなら一つの答えにたどりつく。


 ”負けイベント”。


 そう、実はこの怪鳥・グラディウスとの戦闘から逃げる……それが本来の正規ルートだ。


 それからプレイヤーは敵と戦うための武器を獲得し、物語中盤でグラディウスにリベンジできるようになる。


 そうして自分が初期から強くなったことを実感できるワケだ。


 だから、言ってしまえば戦う必要すらないボス戦。だが、今回はもう一つのルートを選ばせてもらう。それは──。


「グラディウスを──倒す!!」


 完全なる素手。武器も持っていない状態。それでグラディウスを倒す、というあまりにもバカげたチャレンジ。


 そんなを、やってみようと思う。


「さぁ、やるか。久しぶりに!!」


 俺は両方の拳を構えて、骨の怪鳥をあおぎ見た。


 近くで見るとより凄まじい迫力だ。ゲームよりも遥かにリアルで、当然ながらビビってしまう。


 ……でも、同時にワクワクもしていた。なんなんだ、この感覚は? これが武者震いってやつか。


「クァァアアアアアアア!!」


 再び突進してくるグラディウス。もうその攻撃は読めている。俺は攻撃を回避しながら、拳に渾身の力を込める。そして──。


「そりゃぁ!!」


「!? クキィィ!?」


 グラディウスの顔面めがけて、一発ぶちこんでやった!!


 ヤツの細長い顔の骨にヒビが入り、しっかりとダメージを与えていることが確認できた。


 しかし、それも大きなダメージとはいえない。


 もしゲーム内のHPヒットポイントゲージでたとえるなら、一ミリにも達しないほどのダメージだろう。


 やはりグラディウスの方も影響はないらしく、更に攻撃を続けてきた。


「キィア!! キィア!!」 


 今度は翼から骨の破片を飛ばす攻撃。回避の困難な広範囲攻撃だ。


(ここと……次はここ……!!)


 矢のように降り注ぐ破片を、素早く判断しながら避けていく。もし一本でも食らえば致命傷。一瞬のミスも許されない地獄のような時間。


 しかし、気が付けば俺は


(これだよ! これ……!! 俺はこれを求めていたんだ!!)


 そうだ。思い出した。


 俺はギリギリの戦いが好きだ! それも極限にやりこんだ先に見える戦いが!! 

 

 ふと忘れかけていた情熱が、心の中で篝火かがりびのように燃え上がっていく。

 

「おらぁ!!」


「グギィ!?」


 一つ、また一つ、更に攻撃を重ねていく。


 気の遠くなるほど僅かなダメージの積み重ね。しかし、それでも確実に少しずつ、少しずつグラディウスの体力を削っている実感があった。


 そして、”その時”は訪れた。


「キィ……ググ……」


「!!」


 グラディウスがよろけた!! このほんの一瞬の隙──待っていた。この時を!!


「そこだぁ!!」


 俺は両手を硬く握り合わせ、グラディウスの下がった頭へと振り下ろした!! 


「ク……ルァ……」


 かすれた声を上げるグラディウス。それから少しの沈黙が続いた後──骨の怪鳥は霧となって消滅していった。


「か……勝った……?」


 俺は血で汚れた自分の拳を見て、頭上に浮かぶ満月に向かって吠えた。


「やったーーーー!! やったぞ、俺はーーーーーー!!!!」


 こうして、一度も死なずにグラディウスを倒すチャレンジは──大成功に終わった!!


【カースの墓所・クリア】

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