第74話 顔合わせ
怒涛の追い上げにより【第四級】へと昇級したヴァイスを〈派閥〉へと迎え入れ、残るメンバーの空き枠は二人。本日も無論、俺達は最善の状態で最終選定へと望むためにメンバー集めをするわけだが、その前に既存のメンバーで顔合わせをすることにした。
……とは言っても既にフリージアとヴァイスは本当に軽くではあるが面識があるのでちゃんと紹介をする必要もなく、スムーズに挨拶が済むと思っていたのだが────
「あなたが新しく派閥に入る人?」
「はい!よろしくお願いします!!」
どういうわけか二人のやり取りは、まるで今日がはじめまして同士のようなやり取りから始まった。……と言うよりも、一方的にフリージアがヴァイスに敵対心を向けて、それに件の勇者殿が狼狽えてると言う図だ。
────ナニコレ???
まあ、二人がまともに顔を合わせたのは集中的にヴァイスの鍛錬をしていた頃だったので、実質的に初対面と言えば初対面なのだが、それにしても今日のフリージアは何処か様子がおかしい。
基本的に公衆の面前、初対面の相手では公爵令嬢然とした戦闘狂が、今日は何故か最初からその化けの皮が剥がれている。
「いい?言っておくけど私が一番最初にレイから〈派閥〉に勧誘されたんだから、後から入ってきたあなたは私の手下ってことよ。わかった?」
「はい!分かりました、フリージアさん!!」
「いや、分からんでいい。それとフリージアのその嫌な先輩風はなんなんだ……」
横柄な少女と従順な少年の歪なやり取りに思わず突っ込んでしまう。場の雰囲気は重苦しい……いや、本当にそうだろうか?
「とにかく、私がレイの右腕。あなたはそうね……左が空いてるからそっちを上げてもいいわよ?」
「いいんですか!!?」
「ええ。そのかわり、私が右は絶対よ?そっちの方が相棒感が強いからね」
「勿論です!!」
「……」
いったいこいつらは何の話をしているんだ。右だの左だの、立ち位置なんてどこでもいいだろうに……どうやらフリージアには変な拘りがあるらしい。
────まあ、不仲よりはいいか……。
何故か得意げな戦闘狂と、それを見て何故か関心……と言うよりは羨望の眼差しを向ける勇者殿。この二人の相性はなかなか悪くないらしい。
────だとしても挨拶ぐらい普通にしておくれよ……。
本当は挨拶なんて軽く終わらせてさっさと行動に出たかったのだが、最初から予定が狂ってしまった。
今日は七日に一度の休息日であり、授業はない日だ。ないと言っても学院内には普通に生徒が登校しているし、そもそも〈昇級決闘〉の期間中なので休息日はあってないようなものだ。最終選定前、最後の休息日と言うこともあって殆どの生徒がこの日に追い込みをかける。つまり至る所で朝から決闘が繰り広げられていた。本当に世紀末然としてきて笑えない。
────まあ、この休息日が始まれば本格的に最終選定が始まるんだから躍起になるよな……。
俺達としても他人事ではない。正直に言えば今日でめぼしい生徒を見つけて、一気に〈派閥〉に勧誘までしたいところである。
俺は気を取り直して二人を見回す。
「よし、挨拶は済んだな。それじゃあ二人とも仲良くするように」
「はーい……」
「はい!!」
何故か不機嫌な戦闘狂と元気な返事をする勇者殿。
本当にこんな調子で上手くやっていけるのか不安ではあるが、もう後戻りできないところまで足を突っ込んでしまっているのでやるったらやるしかない。そうして俺は一つ咳払いをして改めて確認をする。
「今日集まってもらったのはご存じの通り、残りのメンバー集めをする為だ。とりあえず昼までに学院内を各々で徘徊して、【第四級】の目ぼしい生徒を見つけてもらう。ここまではいいな?」
「大丈夫です!」
「はい」
真面目に返事をするヴァイスとは正反対に、軽く手を上げるフリージア。別に発言をするのは許可制ではないのだが、せっかく手を上げてくれたの授業のノリで名指しをしてみる。
「はい、フリージアさん。なんでしょうか?」
「レイがそこの
「……なんだか変な意味合いを含んだ言葉が聞こえたような気がするが……まあ今無視しておこう。それで、その目ぼしい人って?」
まさか彼女が俺と同じようにメンバー候補を既に見つけているとは思わなかったが、これは幸先の良い報告だ。続きを促すと、フリージアは教室の扉へと視線を向けた。
「実はもう呼んであるの、そろそろ来るはず」
「おお、準備が良いな────」
それにつられ俺も視線を扉へと向けると、丁度よく扉が開いた。そして教室の中に入ってきたのは────
「失礼するよ」
「……失礼します」
とても見覚えのある……と言うか同じ〈特進〉クラスの王子殿下とグラビテル嬢だった。
予想外の人選に俺は驚くが、直ぐに納得もできる。一般的に社交的な(はず)フリージアと言えど全くの初対面な人間をいきなりここに呼び出すはずがない。だからここに気兼ねなく呼べる時点でそれなりに交友のある生徒なのは少し考えれば分かることで、そしてそんな中でも同じ〈継承者〉として親交が深い二人がここに現れたのは必然とも言えた。
────それにこの二人なら【第四級】と言われても不思議ではない。
一度目の人生ではどうだったか知らないが、この二人には【第四級】以上の実力が問題なくある。しかし、そうだとしても疑問は残る。
「えっと、ここまで来てもらっといてなんなんですが……殿下は自分の派閥を作らないんですか?」
そう、クロノス殿下がなぜフリージアの話を受けて、俺の〈派閥〉に入ろうとしているのかだ。
彼ほどの人望とカリスマがあれば俺なんかよりもよっぽど簡単に〈派閥〉を作ることができるだろうし、なんなら〈最優五騎〉だって難なく目指せる〈派閥〉を作ってしまいそうだ。だからこそ不思議でならなかった。そんな俺の疑問に殿下は自嘲気味に答えた。
「レイは俺のことを評価してくれているようだが、それは過大評価ってやつだよ。俺は君みたいな才能にあふれた人間じゃない。だからこうして勝馬に乗ろうとしている。最初のときのようにね」
「そんなことは……?」
どこかいつもと違う雰囲気の殿下に俺は戸惑う。そうして、まともに返事をできずにいると殿下は顔を俯かせて独白のように言葉を続けた。
「だから、今一度俺を見極めてほしいんだ」
「はい?」
「勝手なことを言っているのは分かっているんだ。それでも────」
殿下の言葉の意味が上手く呑み込めずに、やはり俺は戸惑うことしかできない。しかし、件の殿下はそんな俺を気にせずに言った。
「ここで流されたら俺はずっと卑怯者だ。だから、俺と決闘をしてほしい────クレイム・ブラッドレイ」
漸く顔を上げた殿下の双眸には並々ならぬ覚悟と決意が見て取れた。そんな彼の嘆願を断れるほど、俺は空気を読めない奴ではなかった。
しかし、これだけは言わせてほしい────
「どうしてこうなった???」
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