第2話 二度目の
過去に死に戻ってから今日で3日目。未だ、自室で安静を母から言い渡された俺はその言いつけ通りにベットに寝転がって惰眠を貪っていた。最初は久方ぶりの安眠に「こんな人生を望んでいた」と満足気であったが、いつまでもこうしているわけにはいかない。
言うなればこれは仮初の「望んだ未来」であり、遠くない未来……と言うか結構直近で消え失せることが確定している未来なのだ。折角の人生のやり直しなのだ、時間は十分にあるとしてもそれらを有効活用できなければ意味がない。と、言うことで俺は現在、目標であるスローライフを送るための人生計画を真剣に考えていた。
「現実問題、どうしたもんかな……」
この計画が杜撰であれば、それすなわち俺の悲惨な未来の
「改めて現状を客観的に確認してみよう」
自分が侯爵家────ブラッドレイ家の嫡男であり、しかも国の中でも一握りしか扱うことのできな魔法の上位存在〈
「わかっていたことではあるけど、色々と詰んでるな……」
今あげただけでも情報量が多すぎるし、それに連なった柵がデカすぎる。家庭環境上、簡単に血縁を切ることは限りなく難しい……と言うか不可能だろう。
「世界の寵愛を受けた血」と言われるほどの血統、その重要性や貴重性は計り知れず、生まれ持った血が俺に強者の矜持を強制させる。意気込んで片田舎でスローライフを送ると誓ったが、そう簡単な話ではない。
強硬手段、なりふり構わず縁を切るにしても今の貧弱な────一度目ほどの強さを手に入れたとしてもそれも不可能であろう。色々と面倒い柵や、ややこしい説得や手順を踏んで綺麗さっぱり家と縁を切れたとしても結局のところブラッドレイの〈血〉はそれを許さない。何かしらで問題が生じるのは目に見えている。ある種、この血は呪われているとも言えた。
権力争いからは逃れられない。なら、現実的なのは誰かに貴族としての責務を擦り付けて、自分を蚊帳の外に置いてしまうのはどうだろうか?
「ありじゃないか?」
俺には2つ下の妹がいる。名前はアリスで、彼女にブラッドレイ家の家督を継いでもらえば全部解決じゃあないか。
「天才では??」
革命的な発想に我ながら惚れ惚れする。一度目の人生での兄弟仲は────まあお世辞にも良好とはいえず、普通に不仲であったが二回目、幼い頃の今ならばその蟠りも少ない。
「しかもアイツは天才だ」
加えて、妹のアリスは俺に劣らず才覚に恵まれていた。ならば彼女が家督を継ぐことも何ら不思議ではなく。なんなら自然とさえいえた。
「無駄な危険を起こすよりは何倍も安全……だな」
だんだんと破滅回避の道順が見えてくる。一回目の時と同じ轍を踏まないことは大前提として、最優先としては自己の強化だ。家督を継がなくなってもブラッドレイの血縁者ということで危険は付きまとう、自分の身は自分にしか守れない。一度目の人生でそれは身に染みていた。
二つ目は実力を隠し、無能を装って妹に家督を継がせることだ。大変な責務を妹に丸投げするのは心苦しいが彼女ならば上手くやってくれるだろう。同時に妹に護摩をすって良好な関係を築く。
調子に乗らず、謙虚に周りを欺いて実力をつけて、気が付けば権力争いからドロップアウト────基、フェードアウトすること。これがすべてうまくいくかはわからないがやるしかない。
「よし!なんかやる気が出てきた」
行動指針が明確になれば思考や精神もそれに引っ張られる。今までは漠然とやりたいことだけを考えて、それができればいいなぁと楽観視していたがそれではもうだめだ。それこそ一度目の二の舞である。
先当たっては最優先の自己の強化から行動に移るが、付け加えてこの際だからもう一つ課題を設けよう。それは考え方の矯正だ。
「なんなら鍛えるよりも大事まであるな」
一度痛い目を見たからと言って今までの人生で染み付いた性格、考え方をすぐに変えるというのは難しい。今は死んだ直後、過去に戻ってきたばかりで謙虚に慎重な自分を装ってはいるが、いつそのハリボテが剥がれる分かったものではない。
「元来、俺の性格はゴミクズだ……なんならブラッドレイがそういう血筋なところがある」
思えば、信頼していた友に騙され、悪事の片棒を担がされていたとは言え、この生まれや教育の所為で根本的に俺は性格がキツく、常に尊大な態度で驕り高ぶり、調子に乗っていた────と今ならば自覚できる。
そもそもその性格の所為で国でも結構重要な貴族、その跡取りであるにも関わらず国を挙げて公開処刑されてしまったのだ。その腐りきった性根を叩き直して矯正は可及的速やかに実行するべきだ。
その第一歩として、俺は自身にまた誓いを立てる。
「人に優しく、自分に厳しく、人にたくさん恩を売って徳を積みましょう」
それこそが破滅の未来を回避するための近道であることを信じて。
「……さて────」
方向性は決まったならば次は実際に行動だ。正直、いつまでもベットの上でゴロゴロしているだけと言うのも飽きが来ていた。やはり、人間と言うのはある程度活動をして、有り余った体力を消費しなければいけないのである。
性格の矯正と並行して自身の強化。一度目の人生はその才能に胡坐をかいて大した努力をしてこなかったが、二度目の人生で目指すのは不可能に近い未来の実現である。今から死ぬ気で努力をして強くなり、来るべき未来に備える。しかし、一人で強くなるには限界があるし、その限界もすぐに来てしまう。ならば俺よりも何倍も強い武人に師事を仰ぐのがとても効率的であり────
「ちょうど良い師範が今この家に滞在している」
俺はその師範候補に弟子入りするために行動を開始した。
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