第2話 死神

 高校一年生の時、祖母が亡くなった。


 亡くなる前から体調を崩しがちで、入退院を繰り返していた人だった。


 亡くなる前、退院した祖母がこう言っていたのを母が聞いたらしい。


『黒い球が浮いてまとわりついてくる』


 その時、祖母は黒い球が何なのか分からず、目の不調かと思ったそうだ。


 だがそうではないらしい、と分かり手でシッシッと追い払おうとしたが、触れる事のできない黒い球は、そのあとも祖母に纏わり付いていたらしい。




 ほどなくして、祖母は亡くなった。





 似たような話を、母から聞いた。


 我が家は犬派で、小学生の時に譲ってもらったビーグルのミックス犬を飼い、十八歳で大往生するまで共に歩んだ。


 そのあと、数年してからまた犬を迎えようかという話になり、今度は保護犬を受け入れる事にした。


 保護センターで殺処分直前の白い仔犬を迎え、八歳まで一緒に生活した。


 耳は和犬のようにピンと立っているが、体は洋犬の血が混じっているのか、脚がスラリと長い美人犬だ。


 だが殺処分手前で恐ろしい思いをしたからか、一年は家の中で暴れ回り、徐々に慣れていったあとも感情を表すのが難しい子だった。


 キラキラとした目で尻尾を振り、喜びを表す――事ができず、甘える時も歯を剥き出しにしてうなる。


 しかし怒っている訳ではなく、撫でられている間に歯を剥き出し、撫でるのをやめると「もっと撫でろ」とせびって甘えてくる。


 保護される前は人間に暴力をふるわれたのか、股関節に違和感があり、常に横座りしていた。


 加えてよくお腹を下す子で、彼女に何があったのかは想像するしかできないが、可能な限り丁寧に対応し、愛情をかけて過ごした。


 だが八歳の時、突然立てなくなり、その後二日でこの世を去ってしまった。




 この二代目の犬が亡くなる二週間ぐらい前に、母は自宅の居間で黒っぽいものが床の上をスーッと流れているのを目にしたそうだ。


 黒い、布のようにヒラヒラしたような、もやのようなもの。


 母も目が疲れているせいかと思ったらしいが、その黒いものはしばらく家の中でチラチラと見えていたそうだ。


 そしてそのあと、正月を迎えて松の内を明け切らないなか、二代目の犬はこの世を去ってしまった。





 私自身はそう際立った体験をしていないが、母は身内に不幸が起こる時、夢でお告げのようなものを受けるそうだ。


 母は霊感のある人に『あなたは修行すれば〝見える〟ようになる』と言われたらしいが、興味がないので断ったとか。


 夢の話は後日また書きたいと思う。




 祖母は静岡出身で、家系の中には神社の神主だった人もいた。


 現在は別の人がその神社の神主をしているそうだが、もしかしたらその関係で母方は少し特別な力があるのかもしれない……と思った。




 了

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