闇話掌編

臣桜

第1話 首つりの木

 小学生の時、町内会の催しでキャンプに行った。


 市内にある自然公園へバスで向かい、緑豊かな土地を散策し、夜は皆でカレーを作り、キャンプファイアーを囲む内容だ。


 キャンプ場に着いて保護者達がテントを張る間、スタッフの若い男女が子供たちを連れ、付近をを紹介していく。


 爽やかな緑の間を歩きつつ、スタッフの男女は青年の家や遊具のある公園、夜にキャンプファイアーを行う広場を紹介した。


 一番盛り上がったのは滝だ。


 落差が十五メートルはある滝は、どうどうと水音を立てて白い飛沫を立てていた。


「誰かここで死にましたか?」


 笑い交じりに尋ねた男の子の質問に、男性スタッフは笑顔で否定する。


「誰も死んでないよ。どうしてか、みんな滝って聞くと自殺の名所って思っちゃうんだよね」


 望んだ答えが得られず、子供達は落胆した表情をする。


 しかしスタッフも驚かす箇所を考えたらしく、滝からキャンプ場へと戻る道すがら、男性スタッフは立ち止まると、近くにあった木を指さした。


「あの木は『病気の木』と呼ばれていて、触ると病気になると言われています。触らないように気をつけてね」


 思いも寄らないところから怖い話が降ってきて、子供達はどよめいた。


 言われてみれば、樹皮がはげた箇所はやけに赤く、禍々しい。


 男性スタッフの脅しはなおも続く。


「あの木は『首つりの木』。夜になると長い髪の女性が現れるんだって……」


 わざと声を低くした男性スタッフの声を聞いて、女子数名が悲鳴を上げた。


 そのあとは特に何もなくキャンプ場に着いたのだが、ある少女が男性スタッフに尋ねた。


「お姉さんはどうしたんですか?」


「え?」


 男性スタッフは笑顔で振り向き、意味が分からないと表情を固まらせる。


「お兄さんと一緒に案内してくれた、髪の長いお姉さんがいたじゃないですか」


 少女の質問を聞いて、男性スタッフは顔を強張らせ子供達も不安げな表情になる。


「……その女の人、どんな外見をしてた?」


「お兄さんと同じ制服を着た綺麗な女の人だよ。口元にほくろがあったよね?」


 少女の言葉を聞いた瞬間、「そんな人いねぇって!」と少年の声が上がり、蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。


 その後、顔色を悪くした男性スタッフは、案内を終えて足早に去っていった。





 後日、保護者たちが噂しているのを耳にした。


 子供達が目にしていた女性スタッフは、数年前に男性スタッフとの痴情のもつれで『首つりの木』で絶命したのだ、と。


 了

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