3.降臨 【3】合流

【3】               

 拓也が大学の駐車場に車を止めると、ぐに伊吹の車が入ってきた。

 車から降りた伊吹は、拓也の元気そうな姿に安堵の笑みを浮かべた。二人は伊吹の研究室で話すことにし、校舎の方へと向かった。

 連休中の校舎に人影はなかった。研究熱心な教授や院生だけが、研究室に出ているようだった。幾部屋かの研究室で、人の気配がする。

 伊吹の研究室には誰も居なかった。伊吹は自分の研究室の鍵を開け、中へと拓也を招き入れた。拓也は部屋の中央にある応接椅子に座る。

 伊吹は紅茶を入れ、カップの一つを拓也の前に置いた。そしてもう一つのカップを手にしたまま、拓也の左隣に座る。お互いは向き合う形に椅子を回転させた。

「猪神はこの件を知る人間は全員消すつもりなのかしら・・・・・・?」

 肘を机についた手で髪を梳くように額に当て、脚を組んだ身体を机に預けるように傾けて卓上のカップを見つめながら、伊吹は吐息を漏らすように言葉を発した。

 伊吹の部屋には、玄関とベランダから3人の男達が侵入してきた。咄嗟とっさに手元にあったカメラのフラッシュを焚き、暗視ゴーグルを通した光に網膜を焼かれた男達がひるんだ隙に、マンション2階のベランダから飛び降り、直ぐに車で逃げたとのことだ。それから部屋にも戻らず、拓也に連絡を取り続けていたらしい。

「・・・・・・でも、彼らはプロだったわ? 企業がそんなことまでするかしら?」

 伊吹は額を手に乗せたまま、拓也の方を振り向いた。

「そこなんだ。・・・・・・昨日家に帰って考えてみたんだが、猪神製薬所は軍との繋がりがあるんじゃないか?」

「・・・・・・しかも、あれだけの研究費が使えるって事は、軍の一部の人間と繋がってる訳じゃない・・・・・・。一つの国家が関与してる事も・・・・・・」

「・・・・・・そうだな・・・・・・」

 拓也は返事をして、机に視線を落とした。ここまで話しが拡大してしまうと、もはや現実感が薄れてしまって実感が湧いてこないのだ。

 伊吹は下を向いたままの拓也をじっと見つめていた。

「ごめんなさい・・・・・・私が貴方まで巻き込んでしまったみたいね・・・・・・。大学と会社が繋がっている事に気付いていながら知らないような台詞せりふを言ったり・・・・・・」

 拓也は伊吹の言葉を、机を見つめながら聞いていた。拓也に伊吹を恨む感情など微塵みじんもなかった。この事件は、最初から自分が探り始めたことなのだ。ただ、もうこの一件を探る手がかりが無い。行き詰まったこの状況を打開する策も考えつかなかった。

「もう・・・・貴方はこの件から手を引いたほうが・・・・・・」

 伊吹が静かに聞いてきた。

 拓也は顔を上げ、伊吹の瞳をしっかりと見つめて答えた。

「いや、あいつ等は俺達を拘束するまであきらめないだろう。俺がこの件から手を引いたとしても奴等は襲ってくる。その前にこの計画の全貌を掴む事が、それから逃れる唯一の手段だ。それに・・・・・・」

 拓也の瞳に怒りの炎が揺らめいた。

「それに、妻をあんな目に遭わせた奴らを、俺はけして許さない」

 伊吹は拓也の瞳から視線を逸らさない。拓也もそうだった。

「・・・・奥さん、どうかされたの・・・・・・?」

 拓也は悲痛な表情を浮かべて、頭をゆっくりと垂らした。

「昨夜・・・襲われたときに頭を打って・・・・・・今、入院中だ・・・・・・」

「・・・・・・そうでしたの・・・・・・」

 伊吹は悲痛な表情を浮かべる拓也を、悲しげに見つめた。

「・・・・・・そう言えば、貴方はどうやって逃げられたの・・・・・・?」

「・・・・・・それが・・・・・・」

 自分でもよく分からないんだ・・・・・・。

 拓也は、いくら考えても説明の付かない自分に起きた出来事を、伊吹に話してみようと考えた。何故伊吹に話してみる気になったのかは自分でも解らない。しかし、自分一人で考えてみても、昨夜の現象を解明する事は出来そうになかった。

 そう決心し、伊吹の方を見上げた時だった。


「きゃあぁぁぁぁぁぁ・・・・・!!!!」

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