3.降臨 【2】惨劇後の自宅

【2】               

 拓也は自宅の居間の中央に立ちすくんでいた。

 身体に異常らしき箇所は見あたらないと言うので、半ば強引に退院して帰ってきた。

 居間に立ち、部屋を一周見渡す。大型恐竜の爪でなぎ払ったようなえぐられた傷が、四方の壁全周に水平に残っている。庭に面したガラス扉はサッシ毎、庭の中央付近まで飛び散っていた。この惨状を見つめながら拓也は、昨夜の出来事が実際起こったことだと再認識していた。

 壁にめり込んでいた男がいた位置に近寄る。そこには確かに、他の壁と異なる大きな穴が開いていた。

 床に転がっていた男の位置に目をやるが、そこには血痕らしき物も見あたらない。

 この部屋で何かが起こった痕跡は残っているのだが、此処ここに男達が居た痕跡が何も、残っていなかった。

 先程権藤に説明を求められても説明のしようがなかった。今こうして、この場所に戻ってみて男達の痕跡が残っていない以上、昨晩男達に襲われたことを話したとしても、証明のしようがない。例え権藤が襲撃があったことを信じたとしても、その男達からどうやって逃げ延びたのかを、どう説明するというのだ。

 しかしだからといって、この壁の傷や部屋の有様ありさまを何もなかった、と説明することも不可能だ。

 拓也は昨夜のことを最初から思い出してみた。

 しかし怒りに身を任せ、それが全身を包んだ所から、まるで夢の中の出来事のようにしか思い出せないのだ。

 宙を飛ぶ男達。・・・・・・そして、身体に残る男達の肉の感触。

(俺がやったのか・・・・・・?)

 男の鼻骨を砕き、肉に食い込む感触が、自分の身体に残っているのだ。

 拳だとか特定の場所にではない。感触だけが、身体に残っている。それも4人同時に。

(何が起こったんだ・・・・・・)

 自分が起こした出来事とは思えなかった。しかし、身体に男達の感触が残っている以上、あれは自分が起こした現象だと判断するしかなかった。

 部屋に呆然と立ちすくむ拓也の胸ポケットで、携帯電話の呼び出し音が鳴り響いた。

 その音に我に返り、携帯を取り出し耳に当てる。

「先生⁉」

 携帯から聞こえてきたのは、伊吹の叫び声だった。

「・・・・・・伊吹先生⁉」

 昨日、これからの事を考え、いつでも連絡を取って情報を交換できるように、お互いの番号を教え合っていた。

「よかった、無事だったんですね」

 安堵あんどの吐息が混じる声が聞こえてきた。

「昨夜からずっと連絡してたんです・・・・・・。昨日の夜、何もありませんでした?」

 拓也は、自宅に男達が乱入してきたことを伝えた。

「やっぱり・・・・・・」

 伊吹も昨夜襲われたそうだ。

 詳細は直接会って話すことにし、二人は大学で落ち合うことにして通話を切った。

 拓也は切れた携帯を暫く見つめていたが、それを胸にしまい、大学へと向かった。

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