3.降臨 【1】痛ましい妻の姿
◇◇◇◇
遙花は呼吸器を付けた状態で、ベッドに横たわっていた。
頭からはコードが伸び、腕には点滴の管が下がっている。遙花は集中治療室で安静状態だった。周りには、脳波計などの計器が並んでいる。拓也はガラス越しに、妻の眠る病室の中を見つめていた。頭に巻かれた包帯が痛々しい。
顔色は白いものの、容態は安定しているようだ。権藤から、昨夜行われたCTスキャンの結果も聞いたが、脳挫傷や脳内出血のような物も見あたらなかったらしい。病院としては意識が回復してから詳しい検査を行う予定にしているが、頭を強く打ったせいか意識が回復する様子がみられないとの事だった。
拓也は、意識が戻らない遙花を心配した。
遙花の呼吸は、落ち着いているように見える。
拓也も、横に立つ権藤の助けを借りずに立つ事が出来るほどには回復していた。ただ、全身の脱力感から来る自分の身体の重さと、膝が時折崩れそうになる感覚は抜けきっていなかった。
拓也は病室の中の遙花を見つめながら、遙花をこんな目に遭わせた奴らのことを思い返していた。
あの時の怒りが、身体に
「権藤刑事・・・・・・」
「何ですか、先生」
二人は目を合わせた。
「・・・・・・俺は、甘く考えていたのかも知れません・・・・・・」
「―─何を?」
拓也は権藤の目を見つめた。
「・・・・・・猪神製薬がやろうとしていることは、私が考えているよりも遥かに恐ろしいことかも知れない・・・・・・。隠されているのはその実行されている計画だけでなく、その背後にある大きな力・・・・・・。私達がこれから先も捜査を行うとすれば、必ずその巨大な力が障害となって現れるでしょう」
権藤には、一体拓也が何を話しているのか伝わらなかったかも知れない。しかし拓也の真剣な眼差しに、昨夜二人が、通常の人間では味わうことのない経験をしたことだけは読みとった様子だった。
「お願いがあります」
「はい」
拓也は病室に横たわる遙花を見つめた。
「遙花に・・・・・・護衛を付けてもらえないでしょうか」
「それは出来ますが・・・・・・。一体昨夜何が起きたか説明してもらえませんか?」
「それは・・・・・・」
拓也は遙花の横顔を見つめたまま答えた。
「もう少し、頭の整理がついてからにしてもらえませんか・・・・・・」
権藤は拓也の悲痛な横顔を見つめ、そして何も聞かなかった。
二人は、静かに眠る遙花を見つめ、それぞれにこの事件に隠された真相に思いを巡らせていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます