1.破壊者 【4】書き換えられたプログラム
【4】
拓也は自分の研究室の椅子に、机を背にして腰掛け、床の一点を見つめていた。
今権藤に、小林は猪神製薬所から援助を受けていたかもしれない、と言うことを電話で伝えたところだった。
壁を見つめながら、拓也は携帯を取り、ボタンを押した。拓也の耳に電子音が響く。
「もしもし」
受話器の向こうから、男の声が聞こえてきた。
「もしもし、佐々木? 今話せるか?」
そう言って、拓也は佐々木に猪神製薬所の事を聞き始めた。
いくら考えても調査方法が見当たらない拓也は、猪神製薬所自体の事を調べてみようと考えたのだ。ライバル社に
しかし佐々木も、猪神製薬所がどのような研究を行っているかまでは知りはしなかった。最近あまり新薬を開発したという話しを聞かない、程度の情報しか知らなかった。
それは逆に、何か大きなプロジェクトを進めていることへの疑念を抱かせたが、それを佐々木に尋ねたところで、知るはずもないだろう。
拓也は、変なことを聞いて悪かった、と謝罪し、受話器を置いた。
これまでに得た情報を集約して考えると、猪神製薬は薬学だけでなく遺伝子工学の方にも着手しているようだ。ネット上で見た「発生工学」というものも、遺伝子工学に生物がどのように発生・成長していくかという学問までを
小林の研究内容にも興味を持つだろう。
なにせ、小林の研究を突き詰めていけば、「不死」への道が開けるのだ。
しかし、拓也の頭にかかった
よく考えてみれば、昨日は家にも帰らず、眠っていないのだ。
(帰って寝るか・・・・・・)
そう思いながらも、せっかく研究室に出てきているので少し研究を進めておこうとパソコンの電源を入れた。画面は、程なく遺伝子配列が並ぶプログラム画面へと移った。
(・・・・・・ん・・・・・・?)
拓也の視線は画面に釘付けになった。
拓也の指がコンソール上を走り、画面が移り変わる。
画面には、A・G・T・Cのアルファベットが、ランダムに数行に渡り画面一杯に並んでいた。それぞれのアルファベットは、遺伝子を構成する4つの塩基、アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)を現し、この組合せで遺伝子情報が決まってくる。
「ちがう・・・・」
拓也は小さく
目が、画面に並ぶアルファベットを、画面をスクロールさせながら左右に追う。
スクロールキーを押していた指を、拓也はゆっくりと離した。
拓也がこのプログラムに書き込んだ遺伝子配列が、変わっているのだ。
(誰か、触ったのか?)
研究生が、プログラムをいじった事も考えられる。
しかし、それにしては配列に何かの意志を感じるのだ。
勝手にプログラムをいじって、入力間違いをしたようなことではなさそうだ。
何故配列が変わっているのか、思案したまま画面を見つめる拓也の目に、信じられない光景が映った。
それを見た瞬間、拓也の瞳は大きく開かれた。
今、目の前で、画面上のアルファベットが入れ替わったのだ。
もちろん拓也が組んだプログラムはそんな動きをするものではなかった。
拓也が組んだプログラムは、ある特定のヒトDNA配列の中から、意味を持つ遺伝子箇所を見つけだしていくモノだった。その元となるDNA配列を変えるはずがない。
また、まだ遺伝子とその配列が、どのような法則で成り立っているのか理解できていない拓也に、遺伝子配列が自動的に変わっていくプログラムなど出来るはずもない。実際に、特殊な場合を除き、個体の遺伝子配列が変化を起こしていくことなど有り得ないのだ。
次第に暗く染まる研究室の中で、唯一の光源であるディスプレイを、拓也はただ見つめていた。
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