1.破壊者 【2】小林の日誌 ー「彼」ー

【2】 

 拓也と権藤、それに伊吹は地下室へと降りていった。

 研究室では、捜査員達がまだ部屋のあちらこちらを捜索している。

 権藤は、研究室の中央にある、大学ノートが積み上げられた机の前へと進んだ。

「そこの壁から大量のノートが出てきましてね。これなんですが・・・・」

 権藤が見つめる視線の先の壁は、ぽっかりと四角い穴が開いていた。

「研究日誌のようなんですが、専門用語が出てきて、わたしらには意味がようわからんのです」

 日誌の表紙には、書いたと思われる年月が書き込まれている。中には数年前の年が書き込まれたノートもあった。

 拓也は、積み上げられている山の上から一冊抜き出し、立ったままめくった。書き殴った文章が、びっしりと並んでいる。そこには、自分を批判した人物達への恨みつらみを重ねた文章が並んでいた。教授から聞いた、小林の論文が批判された時期に書かれた日記であろう。約ノート10冊に渡って、世の不条理さや憎しみを書きつづった文章が続いていた。延々と続く狂気に満ちた文章の羅列に変化が現れたのは、日付が昨年の1月に変わってからだった。


1月12日

 何故だ?

 何故私の理論をよってたかって否定するのだ。

 私の理論が実証されれば、医学の分野に於いて大きな進歩が見込まれるのは確かじゃないか! ヒトがより幸せに生きていくための、病や老いという苦しみから開放されるのだぞ⁉ 唯一味方になってくれるであろうと思っていた大学でさえ、私の論文を無視するような態度だ。

 そうだ。奴らはただ単に臆病なのだ。リスクを伴うことにチャレンジする勇気がないのだ。私にはある。ただ、私の理論を実証するには、金がいる。

 そうだ・・・・資金さえあれば、あいつらを見返すことが出来るのだ!


1月13日

 今日、自宅に電話があった。

 相手の発した言葉を聞いた瞬間、私は、自分の身体が熱くなるのを感じた。

 私の論文に興味を覚えたという。遂に私の理論を理解する人物が現れたのだ!

 次の言葉に、私は体中の震えが止まらなくなった。私の研究に、資金と場所を提供してくれると言うのだ。

 相手の条件は2つ。

 自分の存在を誰にも知られてはならず、その証拠さえ残してはならないこと。

 多少妙な条件だとは思ったが、資金を得るためならどうと言うことはない。この日記にも、「彼」という表現しか使わないことにする。

 そして、研究の成果をけして彼以外の者に知られてはならないと言う事だった。研究を行っていること自体、知られてはならぬと言う。もちろん私はその条件を呑んだ。明日の夜会うことを約束して、私は電話を切った。電話を切った後も、暫く私の興奮は収まらなかった。遂に私は私の理論を実証する機会を得た。

 私の理論をあざけ笑った奴ら。見てろ・・・・・・。


 翌日に小林は謎の男にこの地下研究所に連れてこられ、研究を開始したらしい。日記は、しばらく備品や必要機材等の搬入記録やメモが続いていた。

 研究室の中が整備され始めると、簡単な実験も始まっていたが、本格的な実験が始まったのは、春以降に大型の設備を導入してからのことだった。どうやら他に機材搬入ルートがあるようだ。そのころには、この研究室は大学の研究設備を上廻る設備を整えてしまっていた。

 一体、小林の研究を援助した者とは、誰なのか。日記に書かれた設備と、それを誰にも気付かれずに運び込んだ事を考えると、一個人の援助ではなさそうだ。

 拓也は、研究記録日誌と変わっていった、小林の日記を読み進めていった。

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