4.―birth―【3】それは森にいる

【3】

 間もなく救急車が到着し、教授は運ばれていった。

 権藤は、救急車にわずかに遅れて到着した刑事達を指揮し、裏庭一帯を封鎖した。

 少し離れた路上で、パトカーの赤いライトが数個、暗い空間の中で回転している。

 教授の血は、森の中から続いていた。

 鑑識の者らしき人物達が、黄色いテープで仕切られた内側で、地面にうずくまって何かを採取し、写真を撮っている。

 教授が倒れていた場所には、人型の白いラインが引かれていた。拓也はそのラインに、先ほど見た教授の倒れた姿を重ねていた。

 地面を見つめていた拓也の視線が、近づいてくる権藤に向けられた。電話で話しながら駆け寄ってくる。

「教授、一命を取り留めたらしいですよ」

「ホントですか!?」

 拓也にとっては、それが何よりの吉報きっぽうだった。

「まだ意識は取り戻していないですが、峠は越えたようです。あの年齢で、あれだけの失血状態にあったのに、奇跡ですよ」

「そうですか・・・、命が助かって何よりです」

「こちらとしても、重要な目撃者を失うことにならなかったのは、幸運ですね」

 権藤も、教授の証言に期待しているようだ。

「しかし・・・・・・」

 そう言いながら権堂は、漆黒の闇が覆う森の方へと視線を移した。細く鋭い眼が、暗闇を睨みつける。

「・・・・どうやら、この森に『居る』ようですね・・・・・・」

 権藤が遠くに視線を移しながら、ぽつりと呟いた。

 拓也もそれには同意見であった。

 この森に「何か」が、居る。

「教授の傷、噛まれたモノじゃあ、ありませんでした」

 拓也は言葉を続ける権藤の横顔に視線を向けた。

「何か・・・爪のような物で腹を裂かれた傷らしい・・・・。それも大型獣の爪のような物で・・・・・・」

 そうして権藤は口をつぐんで、森を見つめた。

 拓也も、その視線の先を見つめた。

 黒いシルエットに浮かび上がる森に、その「何か」の息づかいが、静かに木霊こだましているのを感じ取っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る