3.出現 【2】暗闇の中で・・・

(何だ?)

 部屋中の明かりが消えていた。

 研究室の外からも明かりは届いてこなかったが、それが停電前から明かりがついていなかったのかは分からなかった。

 拓也は椅子から立ち上がって壁まで近づいていき、部屋のスイッチを手探りで探る。指先に触れたスイッチを押してみたが、部屋の明かりはかなかった。

(停電か・・・・・・?)

 拓也はそのことにはらたしさを覚えるよりも先に、データを保存しておいたことに安堵あんどを覚えた。これがほんの5分前に起こっていたら、ここ数時間の苦労が水の泡になるところだった。

 ブレーカーが落ちていないか確認しようと、勝手かって知ったる自分の研究室を、ロッカーに置いてある懐中電灯を取りに行く為、視界の効かない部屋の中を歩き出した。よく知る部屋の中とはいえ、暗闇の中を歩くのはやさしいことではなかった。

(やはり明かりが欲しいな・・・・・・)

 机の上のビーカーに触れないよう注意し、椅子につまずきながら拓也はそう思った。

   ・・・・・・・ブンッ・・・・・

 背後で、低いうなりのような音が響いた。

 部屋の壁が、青色に染まっていく。それは次第に、部屋の中に充満していった。

 拓也は振り返った。

 振り返った視線の先に、ゆっくりと画像を鮮明にさせつつあるパソコンのディスプレイがあった。停電前の画像が映し出される。

 停電が回復したのかと思ったが、部屋の明かりは回復していない。

 いやそれよりも、一度電源を切ったパソコンは、再起動の場合初期画面に移るはずである。ディスプレイの電源のみを切った場合にしか、元の画面を映すことはない。

 拓也は疑問を感じながら、ディスプレイの前に近づいていった。

 画面には、先程と同じく螺旋らせん状に組み上がったDNAモデルがゆっくり回転している。

 それは、螺旋形状が回転しているため、ゆっくり上昇をしているようにも見えた。

 先程までは、ここから変化しなかったのである。

 拓也は画面の前まで来た。

 ディスプレイを凝視ぎょうしする。ひとみに回転する螺旋構造が映る。拓也は椅子にも座らず、その変わらぬ映像を見つめていた。

 ―──いや。

 拓也は気付いていた。ゆっくりとではあるが、映像の螺旋は、速度を変化させていた。

 急速にその動きは速くなり、複雑な動きを見せ出す。

「何だ・・・・・・? これは・・・・・・」

 その映像は、全く予期よきしない動きを見せ始めていた。

 複雑な動きを見せていた螺旋らせん構造の映像は、突然逆回転を始めたかと思うと、急激な崩壊ほうかいを起こした。崩壊した粒子たちは、なおも回転しながらもそのそれぞれの動きはまちまちで、所々で合体と分裂、消滅と発生を繰り返していた。

 しかしそれは無秩序に見えて、はっきりとした何かの目的を持った動きだった。

 拓也は自動的に回復した画面に対する疑問より、その画像の形作ろうとしているものに対しての好奇心の方がまさっていた。

「・・・これは・・・・・・」

 ディスプレイの明かりが、強張こわばり、興奮した拓也の表情を照らしている。

「これはまるで・・・・・・」

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