2.白昼夢 【1】 扉の向こうから
2.白昼夢
【1】
―──5年後―──
拓也が
大学の構内に咲き誇っていた桜も既に散り、新緑の姿に
拓也は研究室で一人、静かにくつろいでいた。周りから聞こえてくる音に比べ、その部屋には何も音を立てるものがない分、遠くから流れてくる喧噪がより一層、この部屋の静寂さを際立たせているようだった。
窓の外に見える木々の
今日は朝から講義が無く、研究生達も講義に出払っていたため、自分の研究に専念することが出来ていた。思っていた以上に仕事は
カップの取っ手を掴んで窓辺まで歩いてゆき、陽光に目を細めながら、白い湯気を立てるコーヒーカップに口を付ける。
(5年か・・・・・・)
窓の外の深い緑を眺めながら、ふと拓也の脳裏にそんな言葉が浮かんだ。
今年の夏を迎えれば、あの日からちょうど5年の
あの日、
しばらくは、その朝霧よりも濃い
(夢・・・・・・?)
ようやく活動を始めた脳細胞が出した一つの結論は、そんなありふれたものだった。
しかし頬には彼女の触れた
強烈な浮遊感が自分を襲い、身体の至る所で起きる
起きあがり、全身に湿った感じが残るのも
こんな、仕事の合間に一服して脱力感を味わっている時にふと、あのときの細胞が彼女と溶け合うような感覚が、予期せずに
立ち昇る湯気が消えたカップに目を落としながら、拓也は口元に苦笑を浮かべた。
あのときの答えに自分が納得出来ずにいるのは、あの出来事が現実のもので、彼女にまた
トントン。
扉を叩く音に、拓也は意識を現実へと取り戻した。
今日は来客の予定はないはずであった。カップを机に置き、入り口へと歩を進める。
「はい」
拓也は、訪問者の人物像を思い描きながら、扉へと近づいた。
扉のノブに手をかけながら、やはり、扉の向こうの人物像は想像できなかった。
ノブを回し、扉を引く。外の光が一斉に射し込んできた。
扉の向こうに、人影があった。
眩い陽光の中に立つその人物―──。
4月も終わりにさしかかった晴れた日の午後。拓也は初めて
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