第36話 やっちまったにゃぁ?

猫人の前に浮かぶ火球。猫人はそこにさらに際限なく魔力を込め続けている。火球は直径1mほどまで大きくなったところで巨大化は止まったが、今度はどんどん明るさを増していく。もはや眼前に太陽があるかのようで、眩しくて直視できない。熱も凄まじく、周囲の植物が発火してしまっている。


これはまずいかも知れない……


「おい! お前達も盾に魔力を込めるんだ!! 速く!!」


俺は部下たちに盾に魔力を込めるように命じ、俺も全力で盾に魔力を送る。盾は五人分の魔力を受け、青く光り輝き始めた。


「これで大丈夫……」


「本当に…? 大丈夫でしょうか?」


「……」


「じゃぁ、撃つにゃよ」


「ちょまっ……




  +  +  +  +




賢者猫カイト


「あ、やってしまったかにゃ……?」


魔法を防ぐ盾が出てきた。そして、言った通り俺の魔法攻撃を受けても耐えて見せた。


もちろん、俺の攻撃魔法も全力ではない。だが、そこそこ・・・・の威力はある。どれくらいかと言うと、森の深層の魔物でも倒せる程度の出力に調整していた。例えば、地竜アース・ドラゴン程度なら倒せる程度の威力があるのだ。


にも関わらず、その盾は耐えてみせたので、どこまで耐えられるのか興味が出てきた。まぁそこで、ちょっと本気を出してみたのだが…


…魔力を込めすぎてしまったようだ。


大盾は地面に突き刺していた下部を僅かに残し、溶けてなくなってしまっていた。


その後ろに居たはずの五人の騎士も影も形もない。


そして、背後に俺が作った屋敷の壁にも穴が開いていた…。


ミスリルの盾と屋敷の壁(俺がかなり強化した)でかなりロスしているはずなので、これでも被害は少ないほうだとは思うのだが、それでも数キロ先まで地面が削られたように一直線に痕が森にできていた。そして…


…遠方に見えていた山の裾あたりにも穴が開いているように見える。その先、穴の向こう側の光が見えているような気がする……。


街のある方向とは違う、森の深奥へ向かう方向なので問題はないと思うが…。あちらの方向には一度行った事があるが、人などが住むような場所はなかったはず。(森や山に住む動物や魔物には迷惑かもしれないが。)


ただ、熱線の通ったルートの周辺の樹木があちこち熱で発火してしまっていた。このままでは森が大火災になってしまうかもしれない。


俺は慌てて巨大水球を作って燃えている場所に向かって何度も投下してやった。


余談だが、改めて見ると地面を抉った後は数キロ程度行ったところでなくなり、その後は空中を熱線は通ったようだ。してみると、この惑星の直径は地球とそれほど大差ないのかな? などと思った。(※球体の上から水平に物を射出すれば―――重力の影響を考えなくて良いモノなら―――進むほどに陸から離れていくわけだ。うろ覚えだが、地球では海上で見える水平線は数キロ程度先でしかないという話を聞いた気がする。)


などと考えながら、ふと庭に視線を戻すと、一人、庭の隅で生き残っている者がいた。


「お? お前は…なんてったっけ? モ…モ……モグラ…?」


「……モイラーです…」


ふと見れば、モイラーの脇に黒焦げの死体がある。


「お前だけか、生き残ったのは…?」


「わ、私は、シールドを張りましたので、死ぬ気で、魔力を全部注ぎ込んで……なんとか生き残れましたが…」


「自分の身を守るのに精一杯で、キムリまで助けられませんでした」


黒焦げの死体はキムリだったようだ。


「シッ……名前なんだったか、白い騎士達は……?」


「溶けてなくなったでしょう! なにせミスリルの盾が溶けてなくなってる有様ですから……。私は必死で離れた場所に避難していたのにギリギリでしたから……例えシールドを張っても射線上にいたら同じ運命だったでしょう…」


「そうか…大丈夫って言うからつい…。もうちょっと手加減してやればよかったにゃぁ」


「……あの……」


「?」


「帰っても……よろしいですかね? 私はそもそもあなたを捕らエニ来タ訳デハ無イノデアナタト敵対スルツモリトカマッタクナイデスカラ!」


後半妙に早口になりながらモイラーが言う。


「……用がないなら帰ればいいにゃ」


そう言いながら俺は土魔法で穴の空いた塀を元通りに直したのだが、それを見てモイラーが目を丸くしていた。


「あ、ここから出るつもりにゃったか? もう塞いでしまったから、出るにゃら門から出てくれるか?」


「え? ああ、いや…そうですね。それでは、気が変わらぬ内に、失礼いたっしや~す!」


魔法使いは脱兎のごとく門から逃げ出して行った。


「これでやっと静かに読書できるにゃ…」




  +  +  +  +




◆領主邸


「で、生き延びたのはお前一人だけ、だと……?」


「…はい。あれは、怪物だと思います…」


「そんな事は分かっている、国内でも一・二を争う実力だったシックスが殺されるほどなのだからな…。詳しく話せ、どんな奴だった? 魔法を使うということだったが、シックス達は魔法でやられたのか?」


「はい…、シックスはいつものように電光石火の踏み込みでその獣人を斬ろうとしたのですが、なんと、獣人の放った魔法のほうがそれより速く…」


「閃光の異名を持つシックスより速く魔法を撃つだと? ありえんだろう?」


「それが、その獣人は無詠唱で魔法を使っておりまして…」


「無詠唱だと?! 獣人が魔法を使うだけでも珍しいのに、無詠唱などと……正直信じられんが」


「それに、仮に無詠唱だったとしても、魔法の発動にはタイムラグがあるはずだ。シックスはその間に斬ってしまえると豪語していたし、実際にやってみせた事もあるではないか? それよりもその獣人の魔法の発動が速かったと言うのか?!」


「…はい」


「しかも、家宝のミスリルの盾を…魔力を通した状態の、それも五人の騎士が魔力を込めたミスリルの盾を……溶かした、だと?! そんな世迷言が信じられるか。ワレリアの賢者だってそんな事はできなかろうよ」


「それが、その、獣人は……」


「なんだ?」


「おそらく、本物の【賢者】ではないかと」


「……お前は一体何を言ってるんだ…?」



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