第27話 猫人討伐指令

■シックス(※第八話からの続き)


街で暴れ、貴族を殺して逃げたという獣人の討伐隊が編成された。メンバーは俺様つまり白鷲騎士団の団長シックスと、その配下の精鋭騎士四人。おそらくこの街で最強の五人だ。


たかが猫人一匹に大袈裟なと思ったが、伯爵の命令だから仕方がない。伯爵としては、獣人に舐められるのは絶対にあってはならない事なのだそうだ。


そして、更に二人メンバーが追加になった。件の猫人が魔法を使うという事で興味を持った魔法師団の団長モイラーが同行を希望し、ワッツローヴ伯爵がそれを認めてしまった。足を引っ張らないと良いのだが。


さらに、その猫人の顔を知っている者という事で、黒鷲騎士団の団長キムリも参加する事になった。


まぁキムリコイツは戦力とは数えていないが。なにせ、その猫人に手足を切り詰められてしまったからな。ある程度訓練して慣れてくればまた違うかもしれんが、いきなりの短足短腕では今まで通り動くのは難しいだろう。


実は俺は相手にしていなかったのだが、一応、本人は俺のライバルであると自認していたようので少し気の毒ではあるが……見るとどうしても笑ってしまう。


“討伐隊”となっているが、できれば逮捕して正式手続きに則って処理するのが理想だ。まぁ正式手続きと言うのは拷問の末、処刑して晒し首にされるだけなのだが。この国では獣人のために裁判など開かれる事はないからな。


逮捕が難しければ討伐してよいとは言われている。まぁ、が行くのだから、難しいなどという事はありえないが。むしろ、ついうっかり殺してしまわないよう注意する必要がある。


…というか、俺はその場で殺してしまうつもりなのだがな。


キムリは恨みを晴らすため、捕らえてじっくり嬲りものにしたいと思っているようだが、俺はそんなくだらない事に時間を割く趣味はない。


そもそも、キムリは実力がなかったから、獣人に負けてあんな無様な格好にされただけだ。ある意味自業自得だろう。


領主家の護衛が任務の白鷲騎士団が街の外まで出張っていくなど、面倒この上ない。本来そういうのは黒鷲騎士団の仕事なのだ。キムリ達がしっかりしていればこんな仕事は必要なかったのだ。


まぁキムリの奴もあんな身体では、後輩に追い落とされるのは時間の問題だろう。ワッツローブの騎士団は実力主義だからな。団長どころか、下手をしたら奴は騎士団からも追い出される事になるかもしれんな。






さて、件の猫人だが、騎士団の聞き込みでその猫人はどうやら街の外の森の中にアジトを構えているらしい事が分かった。


場所については、すぐに発見できた。部下に一人、テイマーのスキルを持っている者がおり、鳥の魔物イビルスパローを使役しているのだ。


部下はイビルスパローの視界を共有できる。イビルスパローは魔物としては小物で戦闘面では役には立たないのだが、空の上から情報を得られるのは戦略面でかなり重宝されている。


門兵の目撃情報では、猫人は以前使われていた旧街道のほうへ歩いていったという事だった。確か崖崩れで通れなくなり今は廃道となっている街道のはず。


上空からその道を辿っていくと、崖崩れの場所のさらに先に、切り拓かれて家が建っている場所を発見した。おそらくそれ・・で間違いないだろう。人間・・は、盗賊でも無い限り、街の外の道も繋がっていない不便な場所に住もうとはしないからな。






崖崩れの場所までは馬で行けたが、その先は徒歩で行くしか無かった。しかも、崖崩れで埋まった場所を登って越える必要がある。おそらく相手は猫獣人なのでこのような岩場を登るのは苦ではないのだろうが、人間には少々難儀であった。まったく、面倒を掛けさせやがるぜ…。


その先の道は、さらに一層草が生い茂っていて足元が見えないほどであった。


「おい、モイラー。草を全部焼き払えよ」


「そうですね、草に隠れて何があるか分かりませんからね」


雑草は場所によっては人の背丈ほどもあった。足が短くなってしまったキムリには深刻な問題だったのだろう。


「地獄の悪鬼、舞い踊る闇、地の渦より湧き出る劫火よ、全ての罪咎を焼き払い、我が道を切り拓けえ【ファイアーフラッシュ】」


モイラーはブツブツと呪文を詠唱すると、炎の魔法を放った。炎の奔流が一気に噴き流れ、一瞬にして数百メートル先まで廃道の地面が見えるようになる。

火球ファイアーボールではない、火炎放射ファイアーフラッシュである。流石は賢者と自称するだけの事はある。魔法の威力は相変わらず侮れん…


…呪文詠唱の時間さえなければ、だがな。


詠唱中に攻撃されると魔法使いは脆い。俺達騎士が詠唱の時間を稼いでやってこそ魔法使いは生きるのだ。


見通しの良くなった街道を進むと、街道の脇に拓かれた場所があり、そこに、塀に囲まれた屋敷が建っていた。






門は開いていた。特に罠などはなさそうなので、俺達はそのまま庭の中に入ってみた。


俺は、顎でキムリに合図する。キムリは黙って頷き、庭の中央に建っている屋敷に近づき、扉をノックした。


…反応がない。


キムリが何度かしつこく叩く。すると、扉が開き、中から二足歩行の猫が出てきた。


獣人と聞いていたのだが、ちょっと想像と違った。


街に居る獣人は、人間にケモミミと尻尾を着けた程度の者が多いが、これは完全に猫だ。まぁ、獣人の中には所謂 “先祖返り” というかなり獣に近い様態の者がたまに居るので、その類かも知れないが…、ここまで完全に猫なのは初めて見た。本当に亜人種なのか? 魔物だったりしないか? 言葉は通じるか?


だが、キムリが見るなり叫んだ。


「コイツだ!!」


『お前……市場であったにゃ、名前は忘れたが…』


猫は人間の言葉を喋った。どうやら本当に獣人だったようだ。


「キムリだ! 覚えてろ!」


「ああ、そんな感じの名前だったにゃ。てかお前…なんかちっちゃくなってにゃいか?」


「貴様のせいだろうがーーー!! 俺の手足を切って間の部分を捨てたろうが?!」


「……あー、そんな事した気がするにゃ」


「やっぱりお前の仕業だったか! なんと卑劣な事を…」


「ははは笑えるにゃ。ちょっと意地悪過ぎたか? 捨ててはいないから、返してやるにゃ」



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