第26話 ケモ耳の幼女
ある日、街を歩いていたら、とある店の前で大男が幼女を蹴り飛ばしているところに遭遇した。
男はその店の店主のようで、幼女が食べ物を盗んだと騒いでいる。
幼女は薄汚れボロボロの服を着ており……頭の上に丸い耳がついている獣人であった。
男が幼女をもう一度蹴り飛ばそうとしたので、俺は男と幼女の間に転移し、男の蹴りを受け止めた。
「これ以上やったら死んでしまうにゃ」
大男が小さな幼児を力任せに蹴ったのだ。幼女は一撃で重症を負ったのは見てすぐ分かった。
「なっ…?!」
小柄な猫人に自分の蹴りを止められ、大男は驚いているようだ。
「酷いにゃこれは……」
【鑑定】すると、肋骨が折れて肺に突き刺さっている状態であったのだ。このまま治療も受けなければすぐに死んでしまうだろう。
「ヒール!」
俺は即座に治癒魔法を掛けた。
「おいっ!! なんだ貴様は!? 邪魔をするな!!」
イラッとした俺は思わず男を睨み、殺気を放ってしまった。思わず感情がこもり魔力が乗ってしまう。
魔力が乗った殺気は単なる殺気ではなく、【威圧】という効果を発揮する。感情に任せて魔力を込めてしまったため、かなりの量の魔力が乗った。結果…
…威圧の効果が強力過ぎ、男は泡を吹いて気絶してしまった。
獣耳の幼女をもう一度【鑑定】してみると、治癒魔法が効いて怪我は治っているようだ。
ふと見ると、離れたところか覗いている子供達が居た。蹴られていた幼女よりもっと小さい幼児で、皆猫耳やら犬耳やらがついている。
俺は怪我は治ったが気絶したままの獣耳幼女を抱き上げると(ちょっと臭かったので【クリーン】を掛けてから抱えた)、その子達のほうに歩いていった。
+ + + +
俺は幼児達に案内され、街の一角にある
そう言えば、この街では獣人が虐げられているという話を聞いた気がする。
話を聞くと、ここでは(特に獣人は)ほとんど食料も手に入らない状態だという。
子供達は空腹に耐えかね、美味しそうな匂いにつられて店に近づき、捨てられていた生ゴミを漁ろうとしたのだと言う。だが、生ゴミから食べられる部分をなんとか探して食べていた子供達を見た店主が、店の料理を盗んだと勘違いして暴力をふるい始めたのだという。
幼女は他の幼い子供を逃がすために留まり、犠牲になったようだ。
俺は、亜空間収納に大量の食料や料理を蓄積している。それを開放して炊き出しをする事にした。
そう、俺がみつけた、後腐れない大金の使い方というのは、スラムの支援である。
本当は、領主がなんとかするべき事なのだが……この国の貴族は獣人を嫌っており、どうにかする気はないそうだ。故意にこの状態を作り出し放置しているようである。
貧しい可哀想な子供はこの世界、どこに行っても無数に居る。(もちろん貧しい大人も居るが。)飢えている子供を一人二人見掛けても、決して助けようと思ってはならないのは、どこの街でも常識だ。可哀想な子は一人だけではないからである。
一人助ければ、他の子も助けなければならなくなる。
一人だけ選んで他の子は助けない、などと割り切れる人間は、そもそもスラムの子を助けようなどとは思わないだろう。
心優しい人が、全財産を投じて助けようとしても、年々増え続ける貧しい子供達を全て助けることなどできはしない。それどころか自分が全財産を失ってスラム落ちするしかなくなってしまうだろう。
だが、俺なら。
全財産投じても何も問題ない。
そして、結構な金を持っており、さらに金はいくらでも増やせそうな状況である。
俺はスラム支援にどんどん金をつぎ込む事にしたのだ。
まず大量の食料支援。
それから衛生面の支援。きれいな服を与え、風呂を貧民街に作ってやった。際限なく水とお湯が出る不思議な井戸付き。(水魔法と火魔法を封じ込めた魔石を使って作った。)
さらに建物も修復、あるいは建て直しをしてやる。
家を作るのは得意だが、俺が手を出すのは緊急で対応する必要があるケースだけにして、残りは街の大工に依頼した。もちろん金を使うためである。俺が自分でやってしまうと金を使う事ができないからな。
ずっと俺がつきっきりで居るわけにも行かないので、スラムの人間の中からリーダーを選び、金を託し、必要な物を買うように言った。
金を預けた者が着服するかも知れないので、商業ギルドに金を預けて支援事業を依頼する事にした。
これならいくらでも金は必要だし、大金を消費する事ができる。使った金が増えて帰ってきてしまう事もない。
街の貴族達や領主は獣人が大半であるスラム街にほとんど興味を示さないので、バレる事もなさそうであった。仮にバレても、俺は街の住人ではないから特に支障はない。
そして……
…俺はスラムの獣人達のヒーローに祭り上げられていたのだが、そんな事になっていると当の俺は気づいていなかった。
俺が関わったのは一度だけで、後は商業ギルドの担当者に任せていたのだが、その担当者は律儀に毎回支援者が俺だと言う事をスラムの住人に周知していたらしい。
まぁこうして、たまに街を訪れ、商業ギルドに素材を卸し、頼んでいた商品を受け取り、街の定食屋で食事をして帰るという俺の街訪問ルーティーンはだいたい固まった。
そして、そんな事を何度か繰り返していたある日、あの事件が起きたのである。
そう、料理屋で飯を食っていた俺に、貴族の冒険者が絡んできたのだ。(※第三話参照)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます