ブラックペッパーサラダチキン
趣味で行っていたクロスワードパズルの懸賞に当たった。2月に応募した懸賞の結果らしい。
何を選んで応募したのかすら全く覚えていなかったが、宅配便で届いたのはサラダチキンを手軽に作ることが出来るサラダチキンメーカーだった。自ら購入することは絶対にしないタイプの電化製品である。
インテリアに馴染むようなデザインを重視したのか、白茶色の四角いボディは、鶏むね肉一つが丁度ぴったりと入るほどの大きさである。正面に3つのボタンがついており、レシピによってモードが選べるらしい。長時間モード、短時間モード、柔らかめや固めなど中々細かく設定できるらしく、親切に基本の作り方だけでなくアレンジレシピまで書かれた説明書が箱に入っていた。コンセントを刺しボタンを押すと加熱が始まりサラダチキンが作れるらしく、偶然にも冷凍庫にはかちかちに凍った鶏むね肉が眠っていた。
私は年中無休でダイエットをしている。筋肉トレーニングも欠かさない。高校時代に少しだけ栄養学や家政系の分野の勉強もおこなっていたことから、栄養やカロリーも気にした食生活を送っている。サラダチキンは私にとって、切っても切れない身近な存在の料理である。タンパク質の塊のようなサラダチキンは、食べる人によっては味気なく、好き嫌いが分かれる料理だと私は思う。食感も味も変化がなく、口の中の水分も取られがちだ。私はサラダチキンが好きでも嫌いでもなく、ただタンパク質接種と作り方が比較的に簡単だという安直な理由から、定期的に作っては食べている。
せっかく懸賞で当たったのだから、使ってみようと考えた。眠っていた鶏むね肉を電子レンジに閉じ込めて解凍する。生気を取り戻した鶏むね肉の水分を拭きとる。レシピの一番最初、ブラックペッパーをまぶしたサラダチキンを作ることに決めた。鶏むね肉の表裏にブラックペッパーと塩をまぶす。薄ピンク色の乾いた表面に、小さな黒胡椒の水玉模様が出来ていく。ブラックペッパーも塩も、結構な量をまぶさなければ味がだいぶ素朴になってしまうだろう。塩分過多はよろしくないが、タンパク質を健康に摂るためには好みの味付けは大切だろう。ぱっぱと振りかけ、メーカーに鶏むね肉を入れる。そこから水を鶏むね肉が被る程度いれ、生姜と料理酒を少しずつ加える。水は計ったものの、生姜と料理酒は目分量入れる。誰かに出すわけではない料理は、ある程度の適当さも必要だ、という自分の粗雑さに誤魔化しを唱えながら。
ぴっという音が鳴り、サラダチキンメーカーが家に来て初めての仕事を始める。被せた蓋には湯気が逃げるための穴がついており、ボタンの周囲は赤く点る。2時間の加熱モードらしい。鍋で茹でて作る方が短時間で済むな、と最悪なことを考えた。
出掛けて帰宅すると、サラダチキンメーカーは仕事を終えていた。ボタンの点灯が消え、蓋を開けると身が白く熱が通った鶏むね肉(サラダチキン)が顔を出した。浸していた水を抜くと、表面に浮いていたブラックペッパーも流れていった。味が消えたのではないかと懸念するも、下になっていたサラダチキンの面にはしっかりとブラックペッパーが残っており、見栄えがいいのでそちらを上にして切っていく。火が通っていないのではないかと思っていた中もしっかりと白く火が通っており、断面もぱさつきが殆どない。私の好む、ある程度水分が残ったサラダチキンである。
大きめの皿に千切りキャベツと共に盛る。食物繊維とタンパク質、という意図していないのにストイックな昼食メニューが完成してしまった。
一口食べると、口内がブラックペッパーと塩のしょっぱさに包まれる。しかし、しょっぱすぎるほどではない。どこか生姜が染み込んだ味もする。ぱさつきのあるサラダチキンだと口の中が気づけば乾いているが、乾くことなく食べ進めることができた。柔らかく、しかし噛み応えのある食感である。サラダチキンは食べ方によっては物足りなさや満腹感の無さが露見することがあるが、程よい噛み応えと水分量のおかげか、完食する頃にはだいぶお腹が膨れていた。作り方や水分量を調整することで、違った風味や硬さのサラダチキンも作ることが出来るらしい。懸賞の予期せぬ当たりが、気づけば私に新たなサラダチキンの魅力を教えてくれていた。
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