第17話 三条西洞院・土御門西洞院にて
あえて陣立てなどしなくとも、
昔話では、祖父か曽祖父が鬼どもに屋敷を守らせていた。ところが屋敷に迎えた妻は、鬼を見る事の出来る人だった。四六時中、鬼に見守られるのも落ち着かない。子供たちにも、これを当たり前に育ってほしくない。そのように訴えられて、ほとんどの者は橋の下に住まわせるようにした。
「法師はどうにか致しましょう。しかし、私は
「そうか。最初から
「御見様が人を使うと言われるのなら、私もその者を使いとうございます」
「どういう意味か」
「鬼に任せるのです」
笑って見せたつもりの表情がひきつる。一方、左中将の見せた笑みは、どこかしら憐れみのように思えた。この人は何を覚悟しようとしているのか。傍らの姫宮は、扇の蔭に顔を伏せたまま黙している。
部屋の真ん中に設えた結界の中に
八条の屋敷から戻り、湯を使い
騎馬の者が二人、従う
これが左中将の使う
欲に長けた者に鬼を
――火はかけるな、騒ぎが大きくなりすぎる――賊に張り付けた鬼どもに命じる。
鬼を使って人を
言葉として聞き取れないほどの、低く小さな声が唇の間から漏れる。
騎馬の
最初に気付いたのは隆範法師だった。鬼の放つ強い気に眠りを覚まされた。大声で家人に賊の侵入を告げ、部屋に設えた祭壇の前に座る。
賊に押しのけられた北の方はといえば、転がっていた
小鬼は見る間に、賊の足に食らいつく若者の頭に飛び移る。小鬼と若者に足を取られ、引きずり倒された賊の横面に、北の方の角盥が振り下ろされる。
法師の部屋に向かわせた鬼の気配が消える。二階棚の上の
背後に火明かりが上がっている。先程、夜盗らが入って来た木戸の方向か。鬼に火付はさせるなと命じたが、騒ぎの内に
足音荒く
松明の火に、部屋の隅でうずくまる姿が浮かび上がる。
渡殿の上に三尺ばかりの、ずんぐりとした影が立ちふさがる。背の丈に似合わぬ太い手足をしている。法師がこちらに気付いたか、幸親は嘲るように小さく笑う。
東対の縁を音もなく、水干姿の
自らの口から漏れるのが、
既に近隣が気付いたか、外が騒がしい。検非違使がなだれ込んで来るのも時間の問題か。引き上げろと幸親は命じる。
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