第13話 三条西洞院にて 其の壱
今宵の空に月はない。
二条を過ぎると、
目的の家は、
三条西洞院の屋敷に寄宿する女の許には、今宵参ると、道雅の手で
それ以上に奇妙に思える。何故、こうも鬼が多い。この周辺に多い訳ではない、往来より集まり来る者が増えている。家やその辺りにいる小鬼に比べると、どこか禍々しさを漂わせる。松明を掲げて引き綱を取る芳紀や、幸親の乗る馬の周囲には殆いない。しかし、遠巻き気味について来る。どうやら、それなりの従順さも持ち合わせる。これが祖父らの使役した鬼なのか。話に聞く十二の神将には程遠く思える。
むしろ、子供の頃に説話で聞いた
万の鬼など御免被る。それこそ鬼の
――俺の言葉を聞け――
声に出さずに命じると、水干の鬼は顔を上げて幸親を見る。顔つきは
――三条西洞院、
微かにうなずく童は、再び音もたてずに芳紀の横を通り抜けて、道の前方の闇に消える。恐ろしくも気味悪くもない。以前から、この者らを知っているようにさえ思える。
道の上には細い糸のように、鈍く輝く軌道が見える。それは下野守の屋敷の西門脇の潜り戸に続く。
芳紀が松明の火を下げて戸を叩く。心得顔の下男が顔を出す。下男が道雅を知っているとも思えないが、顔を見られる訳に行かない幸親は、火明かりから顔を背けて馬を降りる。芳紀は素早く手綱を外し、引き綱を門の脇の駒つなぎに結ぶ。
「では、良い御首尾を」小声で囁き、木戸を潜る主を見送る。
何の首尾だ。門の内の
先程まで下男のいた辺りに、別の水干の童が控えている。芳紀と馬を見ていてくれと命じ、奥へと進む。忍ばせなくとも、冬枯れの庭に殆ど足音は立たない。東対の前庭から縁に上がり、光跡に沿って
俺の目的は何だ。自問しながら、引き戸を細く開ける。
小さな燈台だけが置かれた部屋では、相手の顔も満足には見えない。身にまとう
「道雅様」低い女の声が呼ぶ。
答えぬまま、戸の隙間から身を滑り込ませる。燈台の火を避けるようにうつむき、
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