第11話 右京八条第にて
幸親が袖の下で
意識すれば姫宮の姿ははっきりと見える。上座に座る道雅の横に、当たり前のように座っている。穏やかな目元も、薄い唇の形も、緩やかな頬の線も、弟の
午後の早い内に寮を出て八条に向かった。話を早々に切り上げて退散するつもりだったが、対面までに長く待たされた。
冬の短い日は大きく傾く。
そのように思い始めた頃、ようやく左中将は現れた。西日が
左中将が上座に付くと、当然のように隣に座る。しかし、姫宮が立ち上がる姿も歩く姿も幸親は見ていない。
「昨夜はよう眠れた。感謝しておる」妙に素っ気なく左中将は言う。
「
「ああ。そして
「お分かりになりますか、よう御座いました」
「夢には姿を見たが、
それは申し訳ない、俺にはかなり鮮明に見えている。あの女には似ていない。邪気も妖気もない。
「では、私は私の仕事をしに参ります」単刀直入に幸親は言う。
「御身に言われた通り、
件の女は、三条西洞院の
「あまり、先延ばしにしとうはない故」
「そうか」そして左中将は、はたと手を打つ。
「慎みて拝借申し上げます」
前に置かれた衣越しに頭を下げる。
「返す事など考えずとも良い」左中将は再び笑う。
そちらは笑っていられるだろうが、俺は笑う気にもなれない。今日も内心で毒づく。
左中将から見れば、俺の服装はつくづく頂けないのだろう。幸親にも一応、自覚はある。隆国からも辛気臭いの、地味で貧相に映るのと言われる。裕福な
「では、これより
「うむ。大儀であった」笑い顔を引き締める左中将はうなずく。
自ら衣を捧げ持って、寝殿を退出する姿が滑稽に見える事は、背中に感じる視線で承知している。自ら荷を持つ事のない者に、俺たちの苦労が分かるものか。幸親は益々不機嫌になる。
縁を通り
「家に帰る前に、少し寄りたい所がある」
「賀茂の御屋敷ですか」
「いや、堀川の
北辺に着く頃には夜も更ける。そこからまた屋敷に戻り、更に三条に行く。長い夜になりそうだ。
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