終章:残影

【淡海連続不審死事件調査資料:最終報告】

 ※※※※年五月六日早朝、各報道機関へと送られたデータによって透明人間事件は幕を閉じた。差出人は『クラッカー四〇四号』である。

 警察の捜査資料を傍受したと記された添付ファイルには、要約して以下の事が記述されていた。


 軍の防衛情報本部所属の狩井カリイユキツグ(43)は国際条約によって開発停止されたはずのハログラムの軍事ステルス迷彩を盗用し、闇バイトで集めた無戸籍の人間たちに実装させて情報工作などの犯罪行為を単独で指示していた。

 しかし報酬を巡るメンバー同士のトラブルが発生、殺人を応酬する結果となる。これが連続不審死事件の内容であった。

 すでに殺された者に加えて、実行犯の一人である明石アカシリョウワ(19)も狩井が出向していた公安情報庁淡海事務所の応接室にて殺害された。

 狩井自身も北区の郊外にある物流拠点の地下出入口にて、海外の傭兵を雇った犯罪組織が絡むトラブルに巻き込まれて死亡しているのを発見される。

 また、狩井たちグループが情報や金銭を受け渡していた古書店である首堂商會も同月五日深夜に近隣であった火災に巻き込まれて証拠品など焼失、店内にいた店主も逃げ遅れて死亡した。


 透明人間になれるというハログラムのシステムについては、すでにハヤマホトニクス社の灰瀬テクネ特任研究員が開発したカウンターハログラムによって無効化されることが実証されており、各省庁の手配によって全てのファイフラやIISなどの防犯システムに随時導入される見込みである。


 軍はこれらの騒動は全て狩井独断のものであり、一切の関与はないと報告。

 警察は捜査資料が盗まれたことに対して反省しつつ、それなりの調査が進んでいたことをアピールするためにこの情報を真実として公式会見で発表した。

 また、偶然残されたメンバー名簿によると関わった全ての人間が亡くなったことにより、これ以上事件が拡大することはないと断言。

 実際にこれ以上不審死が起こることはなく、全容がわかってしまえばマスメディアの特集も一週間しないうちに別の話題へと切り替わっていった。そうなればもう、誰の関心も引くことなく忘れられていくだけだ。

 無論、上記のリーク情報についてはこちらの調査結果と異なる点が数多くある。事実ではない。

 しかし、国民を納得させつつ政府上層部の人間を刺激しないためにも、内閣情報会議で特務機関という存在については伏せることが決定し、耳にした者には箝口令かんこうれいが敷かれた。佐理伴サリバン次長の抗議でさえ、閣僚会議において誤報の上塗りを覆すことができず、保守派政治家たちによる事なかれ主義の空気に封印されることとなる。


 所感:クソくらえである。

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