第23話 天変地異が起こるのか
「ジハンギル、何ゆえお主が宰相どのの護衛を務めているのだ」
人目を避けるためジャムスとセリムは宮殿の奥の小部屋で面会している。
その小部屋の前で近衛軍司令官メティンは、ジハンギルを見て渋面を作った。
ジハンギルは顔を青くして、イスハクはきわめて冷静にメティンに応ずる。
「そなたには有り体に話すことにしよう。この者は、セリム皇子が皇室の血縁でないことを不幸にも耳にしてしまったのだ。それゆえこのイスハクが護衛とした。他言を防ぐためにな。本来の手続きを踏まなかったことは謝罪する。が――」
言ってイスハクは、今にも小部屋に近づいて会談の内容を聞こうとするムサたちを見る。
「もう、セリム皇子が先帝のお子でないことは、周知の事実であると見て間違いはないであろう。かと言ってその事実を不用意に広めるのは危険だ。よってジハンギルは、メティン、そなたが直接預かるか、あちらでうずうずしている皇子の味方に加えるかした方がよいと私は考える」
メティンは、冷や汗が襟元まで到達する寸前のジハンギルに、静かに声をかけた。
「ジハンギル」
「は?あ、ハイッ」
「本来であれば配置換えは本人の希望をもとに軍の人事部が考慮したのちに決定する。しかし今は非常時である。非常時には通常の決まりを適用することが必ずしも適切とは限らない。このような時はお主自身の判断で決定せよ。宰相どのにつくか、私につくか、皇子につくか」
ジハンギルは即決し、即答した。
「司令官につきまする」
この二十五歳はイスハクのこともセリムのこともまったく知らないから、メティンにつくしかない。
メティンにもジハンギルの決定は予測できた。そこでいくぶん口調をやわらげてジハンギルを手招きした。
「よろしい。私のそばへ来い」
「承りましたっ。あっ」
ジハンギルはイスハクに、背中が見えるまで頭を下げる。
「宰相どの、失礼いたしましたっ」
イスハクは眉目を複雑にゆがめて応じる。
「こちらこそ、複雑にしてすまなかった」
メティンのそばへ全速力の小走りで戻り、ジハンギルが報告した。
「陛下と皇子の会談は長くかかっております」
「結論はまだ出ておらぬようだな」
メティンは腕組みをして扉に目を向けた。
ケマルは歯を食い縛りながら扉を見つめている。
イスハクはケマルに尋ねた。
「お主が持ち出した星の配置図と先帝の指輪を持って、皇子は陛下の前に出たな。お主の罪を許してくれと言って」
ケマルは苦しげに声をしぼり出す。
「帝国が『変わる』ためにはどうしても、陛下と殿下が力を合わせる必要がある」
「お二人でなければできないことと申すのだな、ケマル?」
「その通りだ」
メティンがケマルに歩を進める。
「大規模ないくさが起こるかもしれないのか」
ケマルはメティンに顔を向けてはっきりと答えた。
「いや、ない」
「しかしそなたは苦しそうな表情をしている。この先何か危険が生じる恐れがあるのか」
「天と地の合意がうまくいかなければ、天変地異が起こるかもしれない」
イスハクが言葉を引き取る。
「今まで我々が経験したことのない大雨が降ったり、大地が揺れて震えたり、高波が船や家や人を襲ったりするかもしれないということか」
ケマルは床をにらむ。
「ああ。天の意志は陛下が、地の意志は殿下が伺う。その結果出た答えの通りに我々は変わる」
そこへ扉が開いた。
ジャムスとセリムは二人とも、強い目を臣下たちに据える。
ジャムスとセリムは互いにうなずき合う。
ジャムスが宣言した。
「これより、私は天を、セリムは地を祭る」
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