第18話 真相

 エメルとイネスがミカエラを、エメルの布団に寝かせた。ミカエラは顔色が青く、呼吸も弱い。

 イネスはミカエラの枕元に座るや、布団に突っ伏した。

「疲れてる?」

 尋ねたエメルにイネスはようやっとまぶたを上げた。

「アルテを使ったあとは疲れる」

「アルテって?」

「カイエでいう、技のことだ」

「あなた、名前は?」

「イネス」

「イネスさん、ここで寝ない?お布団持ってくるよ。ミカエラさんのこと、姫様って呼んでたでしょ。そばにお仕えする方かなと思って」

 驚きが表れている目でイネスはエメルを見た。

「私はあなたを痛めつけたのだよ」

「あたしもあなたとやり合ったよ。お布団持ってくるから待っててね」

 エメルは笑顔を残して出ていった。

 入れ替わりにセリムとケマルが来た。

 ミカエラが顔をわずかに彼らに向ける。

「仕損じました。わたくしならどのような目に遇おうと覚悟はできています。ですがおなかの子とイネスだけは助けてください」

「なりませぬ、姫様!」

 叫んだイネスをセリムが見て、静かに告げた。

「殺しません。敵に回すつもりなどない」

 ケマルが確認した。

「産み月が近づいておりますか、妃殿下?」

「今月中には」

 セリムがミカエラの枕元に椅子を持ってきて座った。エメルが布団を両手にかかえて戻る。

「あたし、お布団敷いたら、出ていった方がいいですか?」

「そうしてくれるか、エメル」

 エメルはうなずき、すぐに部屋をあとにした。

 部屋にいるのは四人だけになった。

 セリムは改めてミカエラに尋ねる。

「あなたは、ジャムスが私を殺せといった真相をご存じなのですか」

 ミカエラは天井に青く美しい瞳を向けた。

「はい。星には、あなたの名前と、滅びる、滅ぼすという配置があったそうです。そこで陛下は帝国の安寧を守り『大波乱』を防ぐため、あなたに自害を命じたと聞いております」

「それは私も覚えています。そこで、帝国のためになるのであればと、自害しようとしたのです。しかしケマルに止められました。あなたが帝国を滅ぼすわけがないと。生きて味方を集め、その上で皇帝にお目通りなさいと。だから一緒に逃げました」

「ケマル」

 ミカエラが呼び、ケマルがセリムの隣から顔を出した。

「話したのですか」

 セリムが眉をひそめて、歯を食い縛ったケマルを見る。

「ケマル。何の話だ」

「明かせとおっしゃいますか、妃殿下」

 ミカエラは青い瞳にケマルを映してうなずく。

「事ここに至っては、隠しておく必要はないと私は考えます」

 セリムが強くケマルに命ずる。

「申せ」

 ケマルはしばらく、腿の上で握りしめた両手を見つめていた。イネスが床に座り込んだままケマルに視線を当てる。

 ケマルは顔を上げ、セリムに正対した。

「殿下は、先帝のお子ではございませぬ」

 セリムが息を飲んだ。

 部屋の外にはセリムの味方全員が息をひそめて聞き耳を立てている。

「何だって」

 言いかけたムサの口をヤクブが手のひらでふさいだ。

「声が大きい」

 セリムはケマルに体を向ける。

「では、俺は、誰の子なのだ」

「レイハーネ様のお子ということに間違いはございませぬ」

「父親は誰だ。どこにいる」

 ケマルの目に涙が満ちあふれた。

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