第3話 姉のバイト先
学校から帰ると、いつも通り家事をこなした。
毎日やっているせいか、家事のスピードが上がってきて、
時間に余裕が出てきた。
姉の穴を埋めるためには、バイトもしないといけない。
でも、どこでバイトをすればいいのか……
そういえば、姉のバイト先には、
今の状況は、どこまで伝わっているのだろうか。
急に姉がシフトに入れなくて、困っているかもしれない。
私が姉の代わりに働きたいと言えば、身元もはっきりしてるし、
雇ってくれるかもしれない。上手くいくかは分からないけれど。
姉のバイト先について調べるために、姉の部屋に入った。
この部屋に入るのは久しぶりだな。
最後に入ったのは、姉が中学生の時だったと思う。
あの時は、部屋中にアイドルグループのポスターが飾ってて、
誰が好きかみたいな話をしていたと思う。
でも、今は貼られているポスターは一枚もなく、
最低限必要な物が置かれているといった感じだ。
あえてそうしているのか、それとも、
買うことができなかったのか……
机を見ると写真立てがあった。
そこには、姉と母さんと3人で映った写真があった。
これは、家族4人で近くの神社に行った時の写真だ。
父さんはいつも写真を撮る側で、写真に写っている私たちより、
うれしそうな顔をしていた。
写真の中の3人は、姉が私に笑顔で抱き着いてきて、
私は少し鬱陶しい感じだけど、恥ずかしそうに笑っていて、
母さんは少し離れて微笑んでいる。
姉と母さんは何も変わっていない。
変わったのは私。
あの時に戻れたらって思ったけど、
戻っても同じなんだろうな。
誰のせいでもない。
私の醜い心は、私の中で生まれたのだから。
机の上には、バイト先の書類が入ったクリアファイルが置いてあった。
早速私は、姉のバイト先である駅前のスーパーに、電話をかけることにした。
「急なご連絡ですみません。高階結花と申しますが、
店長さんはおられますか?」
「高階……もしかして、美咲さんの妹さんですか?」
「はい」
「私は店長の東【ヒガシ】です」
「いつも姉がお世話になっています。
姉のことなんですが」
「知ってますよ。お母さんから連絡を頂いたので」
「そうですか」
「他に用はありますか?」
「……姉の代わりに、働くことはできないでしょうか?」
「いいですよ」
「私は高校一年生でバイトの経験もな……えっ」
「いつから来れますか?」
「明日から行けますが……えっと、面接とか……」
「いいです、いいです。
明日こちらに来て、書類を書いてもらったらいいんで。
あっ、でもお母さんには許可を取って下さいね」
「分かりました。よろしくお願いします」
店長とのやり取りが終わり、静かに電話を切った。
上手くいった?
こんなに簡単に、話が通るなんて。
……そっか。高階美咲の妹だから。
それだけ、信頼されてるってことなんだ。
電話の後、いつも通り夕食を作った。
母の分はラップをして、手紙を付けて、冷蔵庫に入れた。
手紙には、「姉のバイト先で働きたい」と書いた。
次の日、起きると母さんはいなかった。
リビングのテーブルには、私が書いた手紙が置かれていた。
その手紙には「分かった」とだけ、返事が書かれていた。
いつもなら、母さんはまだ家にいる時間だ。
……私と会話をしたくなかったんだろうな。
翌日、学校が終わった後、スーパーに向かった。
店内に入り、店員さんに声をかけると、
奥の事務所に案内をしてくれた。
コンコン
「はい」
「高階です」
「どうぞ、入って下さい」
「失礼します」
店長は、椅子から立ち上がって、出迎えてくれた。
「店長の東です」
店長の印象は、大人の男性といった感じだ。
長身でスーツ姿、眼鏡をかけていて、シャツの上にエプロンを付けている。
30歳ぐらいだろうか。母さんよりは若いと思う。
「高階結花です。よろしくお願いします」
店内の案内や仕事の説明を受けた。
仕事内容は、レジ打ちや品出しなどで、
説明の内容はメモをしたので、見ながらやれば
私でもこなせそうな内容だった。
案内の後、必要な書類に記入した。
「明日から働いてもらおうと思いますが、
仕事の方は大丈夫そうですか」
「はい、大丈夫だと思います」
「そうですか」
店長が少し笑った気がした。
「1つご相談なのですが、会社内では、
お姉さんのことを高階さんと呼んでいるので、
あなたのことは、結花さんと呼んでもいいでしょうか」
「分かりました」
私が仕事で迷惑をかけて、高階の名を汚したくない。
結花という名前なら問題ない。
すでに、汚れ切っているのだから。
「それでは、明日からよろしくお願いします」
「ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
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