第4話緑が眩しくて

 五月に入って、ゴールデンウィークが終わって、今度は工賃の話が、このグループホームでも増えて来た。あたしはようやく友達への連絡の取り方に、迷うようになっていて。

 昔のアドレスじゃないから、パソコンではやり取りは不可能。それに思い至った時、今度はパソコンで手紙を書いては、と思った。USBに入れておけば、プリンターか印刷機があれば、プリントできる。今はどこでも複合機だ。コンビニは。

 だからあたしは手紙を書く時、USBにいれることにした。今度わずかなり収入があれば、印刷して手紙を送ればいい。そう思った。

 あとは手紙にはここの住所を書いて、と想像が膨らんだことは言うまでもない。あたしはそうして、思い通りに考えを巡らせるのが、昔から好きだった。だけどそれ以上のことはなくて。今はお金すらもなかった。

 今は毎日わずかなお小遣いをもらって、それで何とかコーヒーを買っている状態だった。コーヒー党のあたしが、コーヒーをろくに飲まないのは、実はあまりにもストレスになるが、それがルールだと言わられれば、仕方がなかった。

 だけどあたしには楽しみがあって、この時期は緑が眩しい。だからそろそろまた公園に行って、思う存分緑を堪能して、そうして夏に備えようと思う。

 夏バテはしやすいけど、熱中症はあまり経験がない。過去に二度だけ熱中症になって以来、あたしは服にだけは気を付けている。ただそれもこの新しい街では、どうか解らない。まだ朝晩は寒くて、長袖が手放せないほどだ。

 このまま夜が楽しみになっていくのは、昔に帰る気がする。子供の頃が、そうだった。蚊帳の中に入って、蚊と戦って、泣いた夜を思い出す。今は泣かないけど、あの頃から変わらないのは、泣き虫だった。

 そういえば前のグループホームはどうなんだろう? 電話も手紙も書いていないけど、元気だろうか。前の作業所も、あれ以来思い出すことが減ったように思う。今は自然の中にすぐに帰れる。それがありがたかった。症状は安定し、回復に向かえば、今度は作業の量を増やせる。それだけが楽しみだった。

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