第35話

『ちょっ!? 何で階層が繋がる前に飛び降りるんやぁ!?』


 唖然とするボクたちの上で焦ったような声が響き、上を見ると……ドローンが近づいてくるのが見えた。

 それに取り付けられたスピーカーから聞こえた声で、そのドローンの持ち主がハカセであることが理解でき、こちらに向かって下りてくるそれを見てるとドローン越しのカメラでボクの姿を見つけたらしく近づいてきたドローンからハカセが声をかけてきた。


『おお、ようやくのご帰還やなココ! 元気やったか? いや、その様子からして元気やろうけどな。というか本当に言ってた通りに田畑やなぁ……おっ、お米やお米! お米が食べ放題や!!』

「うん、数日ぶりだねハカセ。それで……色々と説明してもらえる? あと、お米パーティーしたいならするよ?」

『マジか! ――とと、せやな。極力連絡を行っとらんだし、元々鍾乳洞っぽかったカメ吉の住処となっとる階層とこの階層が繋がるのも……感覚的に一日はかかるやろうからいろいろと説明することにしよか』


 スピーカー越しに聞こえてくる嬉しそうな声に頷きつつ、色々と聞いてみることにした。

 とりあえずは世間での夏凪さんの状況とか、最近知る気が無かった地上の情報とか、それと……絶賛畑に沈んでしまってる夏凪さんのお母さんである夏凪逢花についてなど。

 どんなことを知りたいのかを理解してくれているハカセは分かりやすく説明をしてくれるようで、宙を浮いていたドローンを移動させるとあぜ道側に食卓や休憩などに用いるために設置しているテーブルの上に着地する。

 そしてドローンに搭載された映像端末を起動させてボクに説明を開始した。

 夏凪さんは……落ちてきた母親が気になるみたいで声をかけ続けているからいっか。


『んじゃ、説明を始めよか? 何から聞きたいんや?』

「そうだね……。じゃあ、夏凪さんの世間の状況かな?」

『まあそうやろなぁ。少し前までの彼女の評価は『友達を救って死んだ勇敢な少女』ってところやった。けど今は大雑把にいうと『可哀そうな被害者』となっとる』


 ハカセは言いながら映像端末にニュース記事を幾つか表示させる。

 その記事の見出しには『探索者学校某支部で行われていた日常的なイジメ』や『命を奪われた少女の実態』や『○○会社の献金~自分の娘を贔屓しろ~』といったものが書かれていた。

 それぞれの見出しの内容を確認すると夏凪さんとは明言されていないけれども日常的に探索者学校にてイジメが行われていたことが確認され、暴露系雑誌では裏掲示板で誇らしげにイジメを行っていた内容を口にしている者などがいることが明らかとされていた。

 さらに別の記事ではそのイジメの内容が大々的に明らかにされており、動画でイジメっ子が喋っていた言葉が文字起こしされていたりしていた……って説明だけだけど、ハカセから聞いていた内容よりもかなり酷いね……。

 そしてイジメ主犯格である生徒の親が経営を行っている企業への捜査のメスが入ったというものだったけれど、どうやら元々金回りが胡散臭いことになっていたらしい。


『で、現状わかってるのは探索者学校の北信越支部の教職員となっていた者たちの大半は懲戒免職となったらしいし、イジメの主犯格などは未成年だとしてもやっていたことがことやからそれ相応の処分がされたっちゅう話や』

「なるほど。……まあ、夏凪さんが殴り飛ばすとかいう展開にはならなかったみたいだね。……で、夏凪さん本人の情報ってどうなってるの?」

『……あー……、それなんやけど……こうなっとる』


 なんだろう、何だか言い難そうな感じがする?

 そう思っていると円グラフが表示された。……うーん、なんか大まかに3つに分かれてる?

 あ、グラフの詳細が表示された……って、『かわいそう』が一番多いけど、2番目に多いのが『どちゃしこ』って何? そして3番目には『不憫』って……体形とか境遇で見られてるってことで良いのかな?

 あとは幾つか悪印象やら過激な感情を抱いているのが細かく並んでたりするけど、どうしてだろうと疑問に思いたくなっていると理由は判明した。


『裏掲示板に上げられていた夏凪ちゃんのイジメ動画が流出したっぽいんやけど、それを見てかなり興奮したっちゅう変態がいっぱい居ったみたいなんや。つーか、イジメの内容の裸土下座・下着姿で集団リンチって何処の過激なAVやっちゅうに……』

「あー……色々と酷いんだね」


 詳しく夏凪さんのイジメられていた内容を調べていなかったけど、本当に胸糞悪いものらしい。けれどそれが明るみに出た結果、彼らには制裁が行われているようだった。

 けれどイジメを行っていた者やそれを見て見ぬふりをしていた教育者たちは、一部を除いてその与えられる制裁を不服としているようで……仕舞いには『今更死んだ人間のことでとやかく言うな!』と強気の姿勢を見せたらしい。

 しかも内々でそう言ってるならまだ分かるけど……、その発言をしたのが謝罪会見で記者たちに追及されたさいに叫んでしまったことらしく、探索者学校に対して悪いイメージがついてしまったようで探索者ギルドの日本支部を統括するギルドマスターは頭を抱えているとのこと。

 ちゃんと下がきちんとしていないかをチェックしていないから、こんな目に遭うんだって思うんだから自業自得だと思うから今後は気をつけて欲しい。


「なるほど……。とりあえず、自分たちは悪くないって言ってる人たちは夏凪さんが強気に出てるってことで良いんだよね?」

『せやな。とりあえずは死んだと思われている夏凪ちゃんが生きてると証明させて、彼女の口から探索者学校での日々を言ってもらうと良いかも知れんわなー。

 そうしたら馬鹿を言ってる奴らは黙って、ウチらは探索者ギルドに貸しを作ることが出来るし、いざとなったときの場合に融通を聞いてもらえると思うやろしな』

「ハカセは相変わらず腹黒いね。……それで何かいい方法でもあるの?」

『何となく考えとることはある。けど……夏凪ちゃん母娘に提案して許可を貰わんとあかんもんやな』

「……なんだろう、そこはかとなく嫌な予感がするんだけど?」

『気のせいや気のせい。とりあえず、夏凪ちゃん関連はこれぐらいやな。で、最近の地上での話題でココ関連がひとつあるんやった』

「ボク関連?」

『せや。これなんやけどな……』


 夏凪さん関連で何かをやらかしそうなハカセの行動に嫌な予感を感じつつも、ボク関連の話題に首をかしげる。

 ボク関連って何かあったっけ?

 そんなボクの疑問に答えるように、ハカセは別のニュース記事を表示させるけど……その見出しに思わず「は?」と口から出てしまった。


 ――高級志向にリニューアルしたレストラン『心根』、オープン初日に営業停止!!


 え? えぇ……?

 ニュース記事の見出しを見た瞬間、ボクはポカンと口を開けて固まってしまっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る