第23話

【くみん視点】


「ん…………んぅ……、まだ、ねむ……あれ……ぇ?」


 ぐっすりと眠っているアタシは、まだ寝足りないからかゴロリと眠る体勢を変えます。ああ、柔らかいマットレスの感触が心地いいです……。

 と、そこで何でマットレス?という考えに、ボケーッとしている思考へと理解が近づいてきました。

 アタシは田畑のあぜ道で倒れてたのに何でこんなに柔らかいのかとか、今の状況が理解できていないとかそんな感じに戸惑っている思考へと、理解が語り掛けてきます。

 眠っている場所はあぜ道ではなくベッドだとか、そろそろ起きたほうが良いとかそんな感じに理解が語り掛けてくる……様な感じに目を覚ましました。


「え……? え? ここ、何処ですか? そ、それに、服が脱がされてますっ!?」


 目を覚まし、周りをキョロキョロ見回しますが……アパートの一室といった感じの室内で戸惑います。しかも防具として着込んでいたダウンジャケットタイプのアーマーが脱がされてて戸惑いました。

 こ、これってアレですか? 探索者には酷い人が居るって授業で学びましたが、まさかアタシもそんな目に……っ!?

 ア、アタシ地味で可愛くないって言われてるんですよ!? なのに、マンガみたいなエ、エッチなこととかされて――って、


「あれ? で、でも、アタシが隈なく調べたかぎりだと……この階層から移動するための方法なんて無かったはずですよね? そ、それでアタシはここに閉じ込められて……」


 混乱していたアタシですが、自分自身がどんな状況だったのかを思い出しはじめ……疑問に思いました。

 授業で習ったことが正しければ、ダンジョンの変動に巻き込まれたら助かることは無いから……ただジッと死ぬのを待つだけになるに違いないと先生にも言われていたはずです。

 そんな状況の中で誰かがアタシを連れ去った? ――はっ、そういえば、気を失うまえに誰かが近づいてきたような気がします!


「じゃ、じゃあ、この部屋って……地上、ですか? ア、アタシ、ほんとに何もされていません……よね?!」


 不安に思いながら自身の体を見て体に触れますが変なことをされた感じもしませんし、それに脱がされていたダウンジャケットタイプのアーマーとリュックはベッドの側にある小さいテーブルの上に置かれていました。しかも丁寧にたたまれた状態で。

 この部屋っていったい何なのか、とか。この部屋の主はどこに行ったのか、とか頭の中で答えのない疑問がグルグルと駆けめぐり混乱します。

 ですが、考えが追い付きません。……それに…………。


 ――クキュルルル~~。


「あ……」


 目を覚ましたことと頭が冴えてきたことで、体がお腹が空いているのを思い出したようです。

 部屋中に聞こえるくらいにお腹から空腹の音が鳴りました。……だ、だれも居ませんよね? 聞かれていませんよね? ね!

 キョロキョロと部屋の中を見ますが、誰も出てくる様子がありません。ということは……この部屋の持ち主は、部屋の外にいるのでしょうか?

 けど外って、アタシは今何処にいるのですか?? ダンジョンの外だとしたら、何処ですか??

 自分の現状が理解できていないでいると、突然部屋の中に響くように声がしました。


『ココ~、目を覚ましたみたいだよ~』

「え?! だ、だれですかっ!?」

『カメ吉だよ~』

「えぇ……?」


 かめきち、と名乗った誰かの声にびっくりして心臓がバクバクします。もしかして監視カメラとかが設置されていたのですか? お、お腹の音が録画されてます!

 誰かと分からない混乱と空腹の音が聞こえていたという恥ずかしさに顔を紅くします。

 そんなアタシへとかめきちさんが声をかけてきました!


『ちょっと待ってね~。ココが来てくれるから~』

「あ、え、そ、その……!」


 響く声に外にいるらしい部屋の主が近づいてくることを知り、焦ってしまいます。

 お礼とかいうべきとか思いますが、何をされるかわかりません。そう思ってしまったアタシは隠れれる場所を探そうと部屋中をキョロキョロしました。


 ベッド、寝やすそうです! というよりもフカフカで気持ち良かったですっ!

 台所、何だか立派な感じがします! 冷蔵庫が大きいです!

 テーブル、小さいから隠れたらお尻が丸見えになりそうです!

 さっき見えた冷蔵庫――勝手に開けたら失礼です!

 タンス、あまり大きくないので入れません!


「あわわわわわわ……!」


 焦りながら部屋の中をグルグルして、ドアを開けてみますが小さめのシャワーがある浴室とトイレがありました!

 あわわ、この部屋の主が来たらアタシは何をされるのですかっ!?

 そんなことを思っているとガチャリとドアノブが回される音がしました。

 瞬間、アタシは急いで隠れてしまいました。


「えっと……、なに……してるの?」

「うぅぅ、い……いませんよぉ、アタシはここにはいませんよぉ……!」


 呆れたような声が後ろから聞こえますが、アタシはいません!

 急いでテーブルの下に隠れてしまったためにお尻を向けていますけど、隠れています! アタシはこの場所には居ませんから!

 そんなどう考えても恥ずかしい行動でしたが、この部屋の主さんはアタシが落ち着くまで待っていてくれました。


 ●


「えっと、その……す、すみませんでした」

「誰だって目が覚めたら知らない場所だった……ってなると混乱するに決まってるから気にしなくても良いよ。それと、身分証明ができる物が無いか勝手に調べさせてもらったけど、ごめんね夏凪さん」


 しばらくお尻を向けたまま怯えていたアタシでしたが、ようやく落ち着き……恥ずかしさが込み上げてくる中で部屋の主さんはフォローを入れてくれます。

 それとチラッと荷物を見たことを謝罪されましたが……、だれか分からなかったら仕方ないので怒りません。

 そんな謝罪する部屋の主さんは紫色の髪をした女性で……見たかぎりだとアタシより年上のようですが、お母さんよりはずっと若く見えます。


「どうかした?」

「い、いえ、なんでもありません!」


 ……この人、どこかで見たような気がしますが、どこでしょうか?

 何処で見たのかと疑問に思っていると、主さんが温かい緑茶がカップを差し出してくれました。


「落ち着くと思うから飲んで――っと、それともジュースがよかった?」

「い、いえ、ありがとうございますっ、いただきます――あ、おいしい……」


 ジュースという単語に心を惹かれてしまいますが、出された物を断るなんていけません。そう思いつつ急いでお茶に口をつけます。

 すると、飲んだ瞬間に爽やかな味わいが口いっぱいに広がり……、お茶の香りが鼻の奥を突き抜けていきました。

 しかも温度は熱すぎず温すぎずといった飲みやすいあたたかさでこくこくと飲めます! それに喉もカラカラだったみたいで、潤っているって感じがします!


「満足できたみたいだね?」

「はい、ありがとうございます! ――あ」


 主さんの言葉に頷くアタシでしたが、飲み物よりもごはんを寄越せと主張するようにお腹がキュルルと鳴りました。

 うぅ、は……恥ずかしいです……っ。

 顔が熱くなるのを感じつつ俯いていると、主さんが訊ねてきました。


「お腹空いてるみたいだけど、ご飯を食べれる?」

「え? ごはん……ですか? あ……」


 とても素晴らしい提案ですけど、頷くのはどうかと思ってしまい答えずにいるとまたお腹が鳴りました。

 それを主さんは肯定ととらえたようで、優しく微笑みながら頷きました。


「うん、わかった。それで何日間遭難してて、その間の食事はどんな感じだった?」

「5日、です。ごはんは……栄養補給のスティックとお水を、調整してました」

「そっか。じゃあ……胃に優しく、おかゆのほうがいいかな」

「おかゆ……おいしそ――じゃなくて、そ、そんな高価なものいただけません!」


 立ち上がる主さんの言葉によだれが出そうになってしまいますが、すぐにハッとします。

 だって、おかゆということはお米ですよね? 高級品じゃないですか! おかゆをどれだけ作るかは分かりませんが、アタシだと数年かかっても払いきれない値段に違いありません……!

 慌てながらアタシは主さんに断りを入れますが、気にしていないとでもいうように手を振ってきます。


「大丈夫。そんなに高価なものじゃないし、それに……どちらかと言えばだからね」

「へ? それって、どういう……」


 アタシの疑問に答えることなく、主さんは外へと続く扉を開けます。

 そこでようやくアタシは今どこにいるのかを理解しました。


「ここって、アタシが閉じ込められたダンジョン……」

「そうだよ。この変動によって切り離された階層をボクらが見つけて、そこで夏凪さんを見つけたんだ」

「見つけて……って、え? どうやって……え?」


 見える稲穂が実った田んぼを見て、ようやくアタシはダンジョンの外に出れていないことを理解しました。

 そんなアタシの心境に気づいているのかいないのか、主さんが語ります。

 というかよくわからない単語がいくつか出ていませんでしたか? まるでこの人はダンジョンを移動できるみたいな様子ですが……気のせいですか?

 改めて目の前の主さんが何者なのか分からなくなり、戸惑った表情でアタシは主さんを見ながら声を漏らします。


「あなたはだれ、なんですか……? 探索者、なんですか……?」

「ボク? ……ああ、ごめんごめん、そういえばボクの自己紹介がまだだったね。ボクは木花心菜、探索者じゃなくてダンジョン料理人だよ」


 アタシが漏らした問いかけに反応して、主さん……木花さんは自身の名前と職業を口にします。……ダンジョン、料理人?

 瞬間、アタシは目の前の木花さんをどこで見たのかを思い出します。


「あ……」


 何となくの呟きと探索者の情報を収集するために利用しているSNSです。

 そこに投稿された切り抜き動画で圧倒的な力でミノタウロスやオーク、さらにはコカトリスを排除していたのは目の前に立っている木花さん……でした。

 ですが、そのインパクトよりも先にSNSで上がっているダンジョン料理人の情報がアタシの口からスルッと漏れてしまいました。


「ダ、ダンジョン料理人……ですか? あの、ダンジョンに生えている野菜とモンスターの肉を食材に利用して変な料理を作るっていうあの? 胡散臭い職業で有名なあの、ですか?」

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