第22話

「それじゃあ、収穫しようかな」


 カメ吉から出て田んぼの前に立つと道具袋から稲刈り用の鎌を取り出すと、手早く収穫するために動き出す。

 だけど、稲穂を一束掴んだ瞬間――頭の中にまた確認をするような表示が出てきた。


 ――――――――――――――――――――


 収穫可能な作物があります。収穫を行いますか?


 収穫可能作物:米、小麦


 はい ・ いいえ


 ――――――――――――――――――――


 ……えー? なにこれ?

 収穫しようと思ってたらそんな確認が出てきて、戸惑う。

 というか戸惑わないほうがおかしいよね?


「というか、このまま収穫を『はい』にしたら、どんな状態で収穫されるのかが問題だと思うんだよね。乾燥されているのかとか、精米されているのかとか分からないし……。ついでに言うとこのまま目の前のポンッと置かれるのかとかわからない」


 範囲選択とか出来ないのかな?

 そう思いながら頭のなかで思考すると、詳細が表示されることに気づいた。


 ――――――――――――――――――――


 収穫可能な作物があります。収穫を行いますか?


 収穫可能作物:米、小麦


 ~~~~~~~~~~

 ・オプション(米)

 乾燥状態:乾燥済み ・ 無乾燥

 収穫状態:穂つき ・ 米のみ(籾つき) ・ 米のみ(玄米・籾殻)

 精米状態:玄米 ・ 白米 ・ 無洗米

 不要物:廃棄 ・ 保管


 ・オプション(小麦)

 乾燥状態:乾燥済み ・ 無乾燥

 収穫状態:穂つき ・ 小麦のみ(表皮つき) ・ 小麦のみ(精麦済み)

 加工状態:製粉(小麦粉) ・ 製粉(全粒粉) ・ 製粉(小麦粉・ふすま粉) ・ 加工なし

 不要物:廃棄 ・ 保管

 ~~~~~~~~~~


 収穫しますか?


 はい ・ いいえ


 ――――――――――――――――――――


 なるほど、上手に使えば色々と料理に使用するときに便利な状態で出されると思えば良いのかな?

 そう考えながらオプションを選択していき、最後に範囲も選択できることに気づいた。

 よかった、全面収穫っていうわけじゃないんだ。

 とりあえずは少しだけ行って、自分で収穫した方がいいとか分かるだろうし……一回やってみようかな。


「とりあえず、ごはん3……ううん、5合分の面積で設定。収穫したものが出される場所は……念のためにこの釜の中に落ちる辺りで設定してみて」


 頭の中に浮かぶ設定を選んでいき、最後に5合分の米の収穫範囲が視界に浮かびあがり……田んぼの範囲を設定する。

 すると設定した田んぼの面積がパァッと光り、ひとつの光の玉のように集まり……その玉は少しすると籾殻を田んぼに落として浮かび上がり、釜の中へと飛びこんでいった。

 釜の中を見ると……精米されたお米が入っていた。それを手に取ると……ほんのり温かい。


「乾燥されてる……。それに、精米したからか温かい。それに見た感じ普通にお米だ……」


 料理人として見たかぎり、米にひび割れが起きている感じもしない……。それどころか天日干しして乾燥したと言っても信じられるぐらいに見える。

 けど、味はどうなのかわからないから……ちょっと炊いてみよう。

 生活魔法であるところの『飲水』を発動しようとしたけれど、こう……引き寄せられる何かを感じた。


「……料理人としての勘が言ってる。ここの湧き水を使うと良いって」


 田んぼの水源となっている場所に引き寄せられている。

 そう睨んだボクは導かれるようにそこに向かうと……予想通り、地中から澄んだ水が滾々と湧いていた。

 固まった土が壁のように湧水を溜め、それが溢れるようにして田んぼへと流れていく……確か円筒分水っていう感じの仕掛けに似てるんだ。

 その水に手を入れると……ひんやりと冷たく、手ですくい口に含む。


「…………これは、いい」


 カルキ臭いような濁った味わいもない、口の中をすっきりとさせてくれる何処か神聖さを感じさせる心地よさ。

 多分だけど、霊水に分類されるタイプだと思う。

 きっと美味しいごはんができる。そう確信しながら、釜の中にある米を洗う。


 釜の中の米が浸るくらいまで水を注ぎこみ、かるく数回かき混ぜて即座に水を捨てる。

 米の表面についていた米ぬかが水を白く濁らせ、流れ落ちていく。

 続いてまた水を注ぎ、掻き回し水を捨てること数回。


「最近お米を炊いていなかったから、この白い水が流れる様子を見るとワクワクするー」


 久しぶりのお米にちょっとテンションが高くなりつつ、ある程度の糠を取り除き……浸水を始める。

 炊飯器を使えばすぐに炊飯スイッチを押したら開始されるけど、それじゃあ味気ない。それに……ここまで素晴らしい金色に輝く稲穂を見たら無作法だと思うし。

 だから釜焚きでのご飯にした。


「カメ吉―。あの子目を覚ましたー?」

『まだだよ~。よっぽど疲れてたんだろうね~』


 この場所に遭難してから数日は経っていただろうから、怖くて眠れなかったに違いない。それと……無意識ながらも助かったと理解してるんだろうな。

 とりあえず、目を覚ますまで放っておこう。

 そう思いながら土魔法で竈モドキを創るとそこに薪を入れ、固形着火剤に火をつけてくべる。


「薪、よーし。着火剤もよーし」


 火が点いた着火剤は赤く燃え、じんわりとした熱を与え……少しすると薪へと着火偉材から火が移り始めた。

 着火剤だけだった火は段々と薪を燃やしはじめ、竈の空いた穴から熱を周囲に生み出しはじめる。

 その空いた上の穴へと木蓋を乗せた釜をセットし、火力を調整。

 燃え盛る火の状態的には中火に近い火力にして……うん、これぐらいでいいかな。

 火力を調整し終えて、釜の様子を見るためにすぐ近くに折り畳み式の椅子を広げて座る。

 ……そういえば、この階層にってモンスターは居ないけど……変動の影響でモンスターが居なくなったのか、それともモンスターが居なかったからダンジョンの意思がこの階層を破棄することを決めたのか……どっちだろう?


「…………まあ、ボクは専門家でもないし考えてもしかたないか」


 考えるのを諦め、ボーっと竈を見続ける。

 火が燃え、釜を熱しているため少しずつ釜の中の温度は上昇し始めたようで中の水がお湯へと変わり始めてるからか白い湯気が釜と木蓋の隙間から洩れ始めているのが見えた。

 そこから少し時間を置くと熱によって圧力が発生し、コト、コトと木蓋が釜の上で鳴り始めた。


「そろそろ火を弱めないと」


 竈の中の勢い良く燃える薪を少し抜き取り、弱火程度に調整。

 取り出した火が点いた薪は……焚き火にしておこうか。

 燃える薪を地面に置くと、その上にいくつか乾いた薪を置く。すると、乾いた薪に火が燃え移り……焚き火に変化した。


「はじめチョロチョロ、なかパッパー、赤子泣いてもふたとるなー」


 コトコト鳴る木蓋のリズムを聞きながら、ご飯を炊くときの極意とも呼ぶべきものを口ずさみ耳を澄ませる。

 パチ、パチ、と薪が爆ぜる音が聞こえ、少しするとお米独特の香りが漂ってきた。

 漂ってくるその香りにゴクリと喉が鳴る。

 ある調味料は……塩が多いし、炊きたてご飯の味を知るなら塩おにぎりが一番だよね?

 炊かれるご飯の味がどんな風なのかを期待しながら、かるく木蓋をずらして中を確認しそろそろ蒸らす頃だと判断。

 弱火となっている火を竈から取り出し、キチンと蓋をしてからしばらく置く。

 その間にちょっとした欲望を口にしつつ、カメ吉とお話。


「あー、今度はお魚系が出るダンジョンに行きたいかな。思いがけず米が大量に手に入ったなら、具材を用意したいし」

『鮭に昆布、マグロもあるからマヨネーズを作ってシーチキンマヨネーズにもできるね~♪』


 期待に胸が膨らむけど、一度に求めている食材が取れるかは分からないのがダンジョン。

 それにある調味料は塩とコショウだから……塩じゃけとシーチキンマヨネーズは問題ないけど、昆布は醤油がないから厳しい。

 あ、そう考えると牛肉もしぐれ煮に出来ないじゃん。しぐれ煮が入ったおにぎりも美味しいのになぁ……。


「やっぱり色々と定期的に収穫できるような状況になれば便利なんだよね……」


 今まさに、移動中であるこの階層のような感じのものが。……偶然遭遇したけど、それを狙って……いや、そんなことをしてたら意味がないよね。

 というかカメ吉への負担がかかるだろうし。今回は偶然の幸運ってことでいっか。


「そろそろ炊きあがったころかなーっと。あ~……、いいにおい…………」


 椅子から立ち上がり、木蓋を持ち上げると中からフワッとした炊きたてご飯の香りが漂い、パリ、パリ、と空気に触れたご飯が音を鳴らす。

 しかも炊かれたご飯はピンと上を向いており、お米が立つってこういうのを言うんだと理解できるようだった。

 うん、上出来な炊きあがり。味のほうはどうだろう?

 ちょっとワクワクしながら、しゃもじをご飯に突き刺して下から上へと切るように混ぜていく。

 すると上からじゃわからなかった釜の内側に出来ていたおこげを発見。

 濃いめのきつね色のおこげが白いごはんに混ざっていくのを見つつ、ある程度混ぜ終えると味見を――。


『ココ~、目を覚ましたみたいだよ~』

「あ、わかったよ。ありがとうね、カメ吉」


 口に入れようとしたところでカメ吉から声がかかる。

 どうやら夏凪さんが目を覚ましたようだ。

 炊きたてご飯は少しお預け……かな。ちょっと残念に思いつつ、木蓋を締めて道具袋に入れるとボクはカメ吉の中へと歩き出した。

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