第20話
地脈移動中、突然カメ吉が大きく揺れた。
「んぁっ!? な、なにっ!? カメ吉、どうしたの!?」
跳ね起きるようにベッドから体を起こし、甲羅内を見渡すと地震が起きているようにガタガタと揺れているのが見えた。
いったい何が起きたのか分からず戸惑いながらカメ吉に声をかけると焦ったような声が響く。
『ココ、ごめん~! 何だか地脈がおかしいんだよ~!』
「地脈の外は……すごく揺れてる。これって……ダンジョン変動!?」
『あ~、それだね~! しばらく揺れるからジッとしてて~!』
何が起きているのかを理解し、ボクは大人しく変動が収まるまでベッドに座ってジッとすることにした。
ダンジョン変動――それはダンジョンが最適化を行うためにする現象らしく、ボクは遭遇したことがなかったけれどこれまでのダンジョンのマップなども一新しなくてはいけなくなるし、出現するモンスターの種類も変化するというものだそうだ。
そういえば、変動に巻き込まれて行方不明になったっていう探索者もいるって話を聞いたことがあるな。
「この辺りって何処だろう?」
『んん~っとぉ! 新潟付近だと思うよ~!』
「ありがとう。っていうか、カメ吉は無理しないで」
『うん~。とりあえず、入れるダンジョンがあったらそこで地脈の荒れが収まるまで休みたい~!』
やっぱり無理してたみたい。とりあえず、何処か休める場所があったら良いけど……ん? あれ? んんん??
何だか、ピクッというか……こう、釣りをしているときに針に魚がかかろうとしている感じのクイクイって感じの引っ掛かりを感じるんだけど……。
あっち、かな?
「カメ吉。ちょっと難しいと思うけど……あっちに向かって泳いでくれない?」
『ど~したの、ココ? あっち? まあ、いいよ~』
カメ吉が自分の意思で地脈の移動を行うことは体力を消耗するし難しいらしい。
けど、何だかこの引っ掛かりは初めて感じることだし、見過ごしたらきっとダメだと思えることだった。
だから無理を言って移動をしてもらったんだけど……、近づくにつれて何だか引っ掛かりは強くなっていくのを感じ――カメ吉の言葉で先に何があるのかを理解する。
『あれ~、ココ~何だかダンジョンの切り離された階層が漂ってるよ~?』
「え?! じゃあ、ボクが感じていたこれって……ダンジョンの階層があることを知らせていたってこと?」
丸窓を覗き込み、カメ吉がいう方向を見ると何かの膜に包まれたようなフィールドが漂っているのが見えた。
通常ならダンジョンの階層は1本の柱のようになっていて、その柱のどれかに流れるようにしてカメ吉が移動している地脈が繋がりそこに入るようになっている。
だけどその柱から切り離された階層なんて見るのは初めて……ううん、もしかしたら切り離された階層は時間が経てば消滅か崩れていって残骸とは通り過ぎていったのかも知れない。
「変動とか階層の入れ替えとかってダンジョンの気分次第っていう話らしいけど、誰がしているんだろうね」
『わかんないや~。っと、そろそろ入るね~』
「うん、よろし――――っ!?」
カメ吉が膜に触れるか触れないかのタイミング、その瞬間に頭の中に問いかけが流れて目の前にボードが表示された。
え、なにこれ?
――――――――――――――――――――
放棄されたダンジョン階層を発見しました。
所有するダンジョンに繋げますか?
ダンジョン特徴:水田(稲穂専用)、畑(小麦専用)
収穫物:うるち米、もち米、硬質小麦、中間質小麦、軟質小麦
リンク先:???ダンジョン2層
リンクしますか?
はい ・ いいえ
――――――――――――――――――――
「はいっ!」
思わず「はい」と答えてしまった。
いったい何が起きているのか理解できていないし、初めて発現した表示だったけれど……ついつい「はい」と了承してしまった。
だけど米と小麦は希少だからしかたない。仕方ないんやねん……。
なんてハカセが聞いたらツッコミを入れそうな似非関西弁で正当性を訴えていると、突然叫んだボクの言葉に膜を潜り抜けようとしているカメ吉が反応。
『わぁ? ココ、どうしたの~?』
「あれ? カメ吉には届かなかった?」
『なにが~?』
……届かなかったようだった。要するに、『???ダンジョン』っていう場所の所有権はボクの物らしい。
『???ダンジョン』なんて聞いた覚えがないけど……何処だろう?
覚えている限りだとカメ吉の飼育環境だけど……。
――――――――――――――――――――
リンクが承認されました。
『???ダンジョン』に向けて移動を開始します。
第2層:名称未設定
――――――――――――――――――――
とりあえず、何処かで名称変更ができるみたいだから……【穀物フロア】とでも名称変更しておこう。
そう思っていると丸窓に映る景色は青空に変わった。
『ココ~、潜り抜けたよ~♪ そして、現在落下中~』
「あ、入れた――え?」
瞬間、無重力になる。あ、落ちてるやこれ。
――って、落下したらカメ吉は大丈夫なの!?
いやまあ、もっと高いところとか硬い地面に落ちたこともあったりしたけど……大丈夫だよね?
『縮んでたら問題ないよ~。ココもしっかり捕まってて~』
「了解! 気をつけてね!」
浮きながらベッドに座り、グッと体に力と魔力を込める。
全身に『身体強化』を行い、衝撃に備えているとズズンとカメ吉が揺れて家具が揺れた。だけど固定されているお陰でどれも被害は受けていないようだった。
ホッと安心しながら周囲を見ると金色に色づいた田んぼと金色に色づいた小麦畑が見えた。本当に穀物がいっぱいある……。
『到着したよ~。うわ~、お米! 小麦だ~!』
そういえばカメ吉は情報を知らなかったんだっけ。
視界に映っている田畑に嬉しそうな声をあげるカメ吉につられて丸窓を見ると、視界一面に広がっている収穫時期を迎えている稲穂と麦の穂。
収穫して、乾燥させたり色々したとしてもカメ吉が食べることが出来る量が提供できるし……育つ期間がわかればハカセのダンジョン食材の流通にも流せると思う。
その場の勢いで良く分からないリンクっていうのを行ったけど、良かったと思っておくことにする。
『あ、人が居るよ~』
「へー、人がー…………え?」
カメ吉の声に思わず聞き返し、丸窓から覗くけれど見える範囲にいない。
なので急いでカメ吉に外に出させてもらい、外に出ると……フィールドのあぜ道となっている場所に誰かが倒れているのが見えた。
「ちょっ!? だ――大丈夫!?」
「ぅ……あ…………」
急いで倒れている人の元に向かい声をかけるけれど返事がない。
多分だけどダンジョンの変動に巻き込まれた人だと思いながら体を揺すると、声がもれた。
よかった。生きてた……。
服装からして探索者だろうけど、ボクよりも若く見える女の子……けどボクより明らかに一部分がデカいのが服越しでもわかった。
そんな彼女は体力的に原因だったようで、ボクを見ているか見ていないか定かじゃない様子だったから……予想通り気を失った。
「……とりあえず、中に運ぼうか」
このまま放置しておくのはダメだろうと考え、気を失ったその子を抱きあげるとカメ吉の中に連れて行くことにした。
……この時は救助しただけと思っていた子だけれど、これから先も彼女と関わることになるなんて今のボクには想像なんて出来なかった。
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