第14話 回想・6
【ハカセ視点】
「助けるって……」
「なあ流はん、ウチはあんたらの事情はとっくに知っとるし、ココの現状だって当たり前に知っとる。そして、あんたらがここを出たらどうするかというのもウチはしっかりと理解しとるつもりや。その上で助けてやろか?って言っとるんや」
厨房の扉から顔を出したウチを見ながら、流はんは戸惑った様子で見ている。
正直、ココが料理を作りながら願ったように、自殺――ていうよりも一家無理心中を躊躇って止めてくれたら良かったんやけど、ちょっと止めるのは難しいと理解した。
せやから、ウチが協力することにした。……ちなみに、これはココのためやない。ウチのためや。
ココが料理を作って、それが原因で人が死ぬことになったなんて言う結末なんて……ウチは見たかないだけや。
おい、誰や今ツンデレとか言い抜かした奴!
「君はいったい……」
「せやな、自己紹介がまだやったわ。ウチはこの児童養護施設『育心園』の暫定的な園長であり、フーヨ魔道具研究所所長の
そして世間やとウチはイカレタ科学者ドクターフーヨとか呼ばれとるけどな!
ちなみにイカレタ科学者とか言われた原因はダンジョン食材を美味しく保存する方法とか、ダンジョン食材の上手く運搬する方法を提案していたとかいう、俗にいう「地上産食材やめてダンジョン産食材食べようぜ!」って感じの方向性があかんかったらしい。
結果、かなりのレベルで食品業界とか研究者界隈から爪弾きされたために絶賛引きこもり中や。
……ニンゲンコワイ、イワレノナイタタキコワイ。――っは、ウチはもうそんな感じのやつらとは縁を切っとるんや! 何言われても怖ない!
ウチは天才、アイアムジーニアス!
「ご丁寧に……。えっと、私は――「知っとる。あんたはナガレトオル、37歳。そっちが妻のウルコでこっちが息子のキュウタ。そんな3人家族で前職は食品流通会社シャドウスターの係長やろ?」――あ、ああ……」
「うわ~、すごいすごい! パパのおしごとさき知ってるの? なんでも知ってるんだね!」
「せやろせやろ?」
「ねーねーおねえちゃん、ぼくねぼくね、パパとママとまたこんなおいしいごはんを食べたいんだけど、食べれるかな?!」
何でもかんでも個人情報を知ってるウチに引き気味の流はんやったけど、息子のキュウタくんがウチに質問してきた。
ある意味ナイスアシストやと思う! それにいい感じの質問や!
「ウチは何でもは知らないよ。けどな、キュウタくんが言う『またこんな料理を食べれるか』って質問は……できるで。流はん、ウチは名ばかりの研究所所長やけどな協力してくれる……しっかり働いて裏切らない職員を養える蓄えはあるつもりや。バカな考えを抱こうとする余裕がないようにするくらいはな。な?」
「……………………」
そうウチは言いながら、流はんを見るけれど流はんは自分が行おうとしていることがあかんことやと理解しとるようでウチから視線を逸らす。
ま、ええけどな。とにかく話すだけ話させてもらうで――ってことで主力製品をテーブルの上へと置く。
それは何の変哲の無い巾着袋やけれど、縛り口の辺りに楕円に磨かれた平状の宝石が飾り付けられているものや。ちなみに宝石の中には独特の紋様が刻まれとる。
「これは……?」
「ウチの研究所がダンジョンを潜る探索者に販売している魔道具……名前は空間拡張型素材回収道具袋や」
ま、探索者たちは略して『道具袋』って呼んどるけどな。
この道具に取り付けられた魔石には空間拡張の魔法が『付与』されていて、魔法が付与される魔石のレアリティと袋に使われる素材の強度によって何処までも強化することが可能やし、どんな物でも入るように設定できる。
せやから、下層に潜れるようになった熟練の探索者たちには必需品となっとるし、中層の探索に慣れて初心者から脱却した背伸びしたい探索者の憧れのアイテムとなっとる。
それを説明すると流はんは納得したように頷く。
「なるほど、探索者のことはあまり詳しくありませんが……大量にある荷物を少量にして持ち運べるなんて、それが1個あっただけでも行きも帰りも楽になる……夢のような道具ですね」
「さすが流通関連の仕事をしてただけあるな。ちゃんとわかっとる。ま、せやけどウチとしては道具袋が本来の用途からずれて、倒したモンスターから剥ぎ取った素材回収のためだけにいるというのが気に喰わへんけどな」
「本来の用途ですか? 葉加瀬さんの説明を聞いているかぎりだとダンジョンで手に入った物を持ち帰るために道具袋を創ったとしか思えないのですが……違うのですか?」
不貞腐れるように言ったウチの言葉に流はんは首を傾げながら尋ねる。
あたんまえや。探索者に売り捌いているのは資金稼ぎやけど、本来の目的は探索者たちの荷物の持ち運びを良くするわけやない。
やからウチはニィと笑みを浮かべつつ答える。
「ウチが道具袋を創った理由は簡単や。『美味しいダンジョン食材が食べたい』ただそれだけや」
「ダンジョン食材……」
「流はんに取っては勤めていた会社がダメになる原因やったから、かなり抵抗はあるやろな。それに世間の認識やとダンジョン食材は体に害を及ぼす上にクソ不味い。せやろ?」
「は、はい。そう認識しています」
苦虫を噛み潰したような表情をする流はんを他所に奥さんに問いかける。すると話を振られて戸惑いつつも頷いた。
安価・不味い・正体不明の毒持ち。それがダンジョン食材のイメージや。
せやけど、ちゃう。ダンジョン食材は上手に運搬し、食材のことを理解しとる料理人が調理することで地上産の食材を遥かに上回るもんになるんや。
そうウチは流はんたちに説明する。
「では……、私の会社がしていたことは……」
「流はんには酷なことを言うけど、シャドウスターが進めてた計画ははっきり言って失敗確定やったな。パチモン……は言いすぎやけど、ただたんに素材を剥ぎ取るだけの探索者に肉や野菜といったダンジョン食材の運搬を依頼。ダンジョン食材の運搬方法なんて知らない探索者たちはレベルが低い道具袋に保存して運搬。受け取ったシャドウスターは普通の業務用冷蔵庫に保管。普通に瘴気っちゅう人体に害を与える毒まみれになるんも当たり前や」
で、想像していたものとまったく違ってシャドウスターの上層部は混乱、しかもお金は戻ってこない。結果が逃亡やな。
流はんも運搬方法や保管方法を当たり前に知らんやろうし……、やっぱり周知化は必要やろな。
流はんもクソ不味いダンジョン食材の試食をさせられたし、味を知った結果もちろん反対はしていたんやろうけど、進めているのが社長とかやから推し進められたっていうのは大変やなぁ。
ってことで、爆弾投げさせてもらうことにするわ。
「そんで、流はん。ココが作った豚の生姜焼きは美味しかったか?」
「あ、ああ……。あれは、美味しかった。本当に、美味しくて……懐かしかった」
ウチの言葉に流はんは昔を思い出すように遠い目をしながら味の感想を口にする。
その言葉に同調するように奥さんも頷いているし、キュウタくんも「おいしかった」と言っとる。
ま、少しすると何かに気づいたように戸惑った表情を流はんは見せた。お、気づいたようやな。
「は、葉加瀬さん……。まさか、これらの食材は……」
「せや。ちゃんとした方法で運搬されて、ちゃんとした方法で保存されて、ちゃんとした方法で調理された――ダンジョン食材や」
笑みを浮かべながらウチはその事実を告げた。
しかも魔冷庫に魔力がしっかりと充填されとると2年以上経っても食材は瘴気を纏うこともないし、腐ることがなく新鮮なままっちゅうある意味で夢の食材や。
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