第8話
岐阜ダンジョン下層の奥地、カメ吉が停泊した場所をベースキャンプとして少し時間が経った。
収集した野菜も満足が行く量になり、今日はお肉を満足いくやり方で調理することにした。
使える物は基本的にフライパンや鍋、オーブンや電子レンジなんてダンジョン内で使えることはない。
だけど美味しく作る方法なんて幾らだってある。
今行っている調理法もそのひとつだった。
「……よし、そろそろいい感じかな」
数時間と長い時間燃やし続けていた焚き火が消えかけてるのを見ながら、地面に土魔法で皿を創り出す。土魔法で作った素焼きのような皿が2枚。
その隣に焚き火の下から焼き続けていた粘土の塊を取りだす。
『もう出来たの~?』
「うん、量が少ないと思うけど保有されてる魔力量は多いと思うからカメ吉も満足いくと思うよ」
『そっか~、期待しちゃうよ~♪』
嬉しそうに話すカメ吉の声を聴きながら、ほうちょうの柄で粘土を叩いて殻を割る。
すると割られた箇所から濃厚な牛肉とコショウ独特の香りが出てきて周囲に広がった。
うん、この香りはいい感じの出来栄えだと思う。
ワクワクしながら粘土の殻を砕くと、じっくりと焼き蒸された牛肉の塊とゴロゴロの玉ねぎとニンジン、ナスにトマトが姿を現す。
それを手早く切り分けていく。
野菜は乱切り、牛肉はボクの分は薄く切って少なめに、カメ吉の分は厚く切って多めに。
切り分けられた肉は中は赤いけれど、じっくりと中まで火が通っているので問題は無し。
それらを皿に盛り付け、軽く塩を振って完成。
「出来たよカメ吉」
『わ~い、それじゃあ食べようか~♪』
「召し上がれ」
そう言うと箸を使って、食べることにする。
まずは……お肉を1枚。箸で摘まみ、口へと運ぶ。
瞬間、普通に焼いた肉とは違い、口の中に濃縮された牛のうま味が広がった。
例えるなら、ボクに向かって無数の牛が突進をかましてくるかのような牛のうま味だ。
しかもじっくり焼かれたために肉の食感は柔らかく、噛めば噛むほど肉汁が溢れた。
そして玉ねぎは熱によって甘く柔らかい。人参も少し硬いけれども本来の甘味が広がって、牛の脂を流してくれる。
またトマトは甘い酸味が程よく、ナスは脂を吸い込んでいてジューシー。
『う~ま~~い♪』
「美味しいね。でも塩だけじゃ本当に満足できないや」
『そうだね~。地上の食材は美味しいけど使うとグチャグチャになっちゃうからね~』
醤油、味噌、酢、みりん、ソース、ケチャップ、マヨネーズ、カレー粉。
懐かしき調味料たち。それに砂糖も欲しい。
砂糖だけじゃなくて、フルーツの甘味も味わいたい。
ポピュラーなリンゴ、ミカン、オレンジ、梨、イチゴ、バナナ、メロン、ブドウ、モモ、ああ……食べたいなー。
「カメ吉。今度はどこのダンジョンに行けるかな?」
『わかんないけど~、次はお魚食べたいな~♪』
「ボクは甘味が食べたいな。フルーツとか。あ……小麦も見つけたら欲しいな。パンを作りたい。でもフルーツ、特にリンゴとかあれば酵母が作れるんだよね」
まあ、正確な作り方はあまり覚えていないから、家に戻ったらちょっと調べよう。
だけど主食は本当に欠かせない。
現に今だって米を見つけることが出来たから採取してみたけど……量は1合にもならなかった。
かつては一升分のご飯が炊かれて、焼きほぐした鮭や昆布、シーチキンといった具材を詰め込んだ大きなオニギリを握って、大きく口を開いて頬張っていたらしい。
けれど、そんなことはもう遠い過去の出来事で……今の地上ではそれを行うことは出来やしない。一升分の米を手に入れようとするには1億でも足りないくらいだから。
「地上の作物はもう育たないから高いのは当たり前だと思う。でも、ダンジョンでなら何時かは大きなオニギリを大勢でお腹いっぱいに食べることが出来るって信じてる」
『そうなると良いね~』
「うん、そのときはカメ吉の顔よりもおっきなオニギリを作るから期待してよね?」
『うは~♪ 期待するよ~!』
ボクの言葉にカメ吉は嬉しそうに返事をする。
その言葉を聞きながら、ボクは次の料理に取り掛かるのだった。
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