第5話

 コカトリスの血は……うん、溜まってる。

 鍋の中に見える赤い液体を見て頷き、手に持った石化毒液が詰まった袋状の器官である毒袋の端を摘まむと底を軽く切る。

 すると切った箇所から石化毒液がドボボと鍋の中に落ちていき、血と混ざり合いながらドロドロのピンク色のような色合いを見せ始めた。

 その状態のまま鍋に火にかけ、しばらく置いておくと沸々と沸騰をはじめて毒々しい色をした湯気が出はじめた。


「…………いまだ」


 この吸えば石化してしまう湯気が鍋から立ち始めた瞬間を見極め、素早く毒袋を切り刻んで鍋の中に散らす。

 散らされた毒袋は毒で満たされた鍋の中に沈んでいき、何事もなく煮込まれていく。

 けれど次の瞬間、スゥー……と鍋の中のドロドロとしていた液体は無色透明に変化した。無毒化完了。

 無毒化した毒液に溜まった余分な物を排除するために布で漉しながら、別鍋に移すと今度は調理器具を道具袋から取りだす。


「具材はメインを鶏肉とトマトにして、ナスと枝豆かな。それだけじゃ味気ないから牛と豚も塩とコショウで焼こう。ハウス内に米が育ってたら良かったのに」


 使用する具材を決めたから、調理開始。

 吊るした肉を手早く部位ごとにカットし、そこから鶏もも肉をまな板の上に置く。

 置いた鶏もも肉を食べやすいサイズにカット、続いて育っていた野菜を手早く回収してパパッと切っていく。

 カットした肉と野菜をフライパンで軽く炒めて、鍋の中に入れていきコトコト煮込み始める。あ、塩はちゃんと入れているから。


「ダンジョン、料理人……っ」


 石化した仲間と傷だらけの仲間を集めていた探索者がドローンを見ながら、恐怖に満ちた声を漏らす。

 なんていうか化け物にあったとでも言うような反応しているけど、何か問題があるのだろうか?

 モンスターやダンジョンで自生する食材を使用して料理を作るダンジョン料理人であることに何の問題があるのか。一応ボクはダンジョン料理を作ることに抵抗もないし、無理強いをするつもりはない。

 けれど、今は食べさせないと気が済まないから……食べさせるだけだった。


「よし、完成!」


 自分の分と彼らの分の具沢山トマトチキンスープと、豚肉と牛肉の塩とコショウで焼き上げたステーキ、それと付け合わせに焼き野菜をテーブルに置き、腕を組みながら出来栄えを見る。

 ホカホカと湯気を立てる真っ赤なスープ、積み重ねられるようにして皿に盛られたポークステーキとビーフステーキ。その間には炒めた玉ねぎ、長ピーマン。それとほうれん草のソテー。

 探索者の食事と言ったらこれだろうといった感じの見た目の料理だ。

 かるく味見をする……うん、美味しい!

 口の中に広がる鶏の味。それに負けないトマトの風味が最高だ。


「さ、召し上がれ」

「いや、めしあがれって……こいつら食べれないんだけど。……というか食いたくない」


 ボクの言葉に何とも言えない表情をしながら探索者は答えた。

 っと、そうだった。石になってたら自分からは食べれないよね。

 申し訳ないことをしたと思いながら、トマトチキンスープが入った鍋を手に持ちながら、石になっている探索者たちへと近づくとその口へとスープを注ぎこんだ。

 許可なくそれをしてしまったからか、茫然と立っていた探索者が怒鳴り声をあげる。


「!? な、何してるんだよ!?」

「何って、石になってたらご飯食べれないから、元に戻ってもらう」

「はぁ!? そんなわけの分からねー料理で何ができるって――「うおっ!? あ、え? な、なにが……? う、動けねぇ!? 何だこれっ!?」――は?」


 胃にスープが到達したようで、スゥッと石になっていた探索者が元の人間らしい肌の色に戻る。

 それを見たからか怒鳴っていた探索者の顔がポカンとし、石から戻った仲間を見ていた。

 その一方で石化が解けた探索者のほうは服が石になったままだから動けずにいて混乱していた。

 そんな彼らを無視して残りの石になっている探索者の口の中にもスープを注ぎこむ。胃に到達して石化が治ったけれど動けないことに戸惑っている。

 石化が解除されたから、今度は怪我の回復をしないと。

 そう思いながらポークステーキを取るとひと口大にカットして、意識が朦朧としている探索者に近づける。


「美味しいよー。食べないと無くなっちゃうよー?」


 漂う肉の香りに鼻をヒクヒクさせながら、無意識なのか意識朦朧の探索者がステーキに口を近づけ……含んだ。

 一口、二口、口の中が動き、ごくんと喉が動く。

 そして、少しして唐突にパチッと目が開いた。


「う――うっ、うーまーーいーーーぞぉぉぉぉぉ~~~~っ!!」

「え、え? な、なんだよこれ……何なんだよぉ!?」


 さっきまで死へのカウントダウンといった感じだった意識朦朧の探索者は立ち上がり、両腕をあげながら肉の味に感動の声をあげてステーキの山が置かれた食卓へと突撃した。

 それを見てから残りの怪我人にもステーキを食べさせると、彼らは皆立ち上がり食卓に向かって駆けだした。


「あんた……、いったい……なんなんだよ……」

「何って、料理人だよ? ダンジョン食材で料理を作る料理人」


 探索者の問いかけにボクは答える。

 ダンジョンモンスターとダンジョンに自生する野菜、それらをダンジョン内で加工して作製した調味料を使って美味しい料理を作る。

 オールダンジョン食材で、料理を作る料理人。


 ダンジョン料理人。それがボクだった。

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