第4話
【ある探索者視点】
ハウス内を一瞬で血に染め上げた少女。
その少女に恐怖しながらも、震えあがる声でなんとか声をかける。
「あ、あの……」
「無事?」
するとまるでいま気づいたとでも言うような口ぶりで少女は俺を見た。
しかも、その少女の様子はモンスターハウス内のモンスターを一瞬のうちに殲滅したというのに、上層のウサギを1匹仕留めたといった風だった。
探索者としては上位に位置する俺たちのパーティでさえ、ハウス内でほとんど防戦一方であったというのに、少女には血や土の汚れも付いていない。
生き残ったといった喜びの感情も、これだけのモンスターを倒したという達成感もこの少女からは感じられない。彼女は……人間なのか?
混乱する思考の中、少女の問いかける。
「は、はい、無事です。けど……仲間たちが」
逆らってはいけない。目の前の少女の機嫌を損なわせてはいけない。
本能がそう叫び、敬語で返事をしながらハウス内を見るけど……石になってしまった仲間たち、壁に叩きつけられたために一応生きてはいるけど……地上には戻れない仲間たちを見て悲しくなる。
くそっ、俺があんな依頼を受けなければ、こいつらだって生きてたはずなのに!!
多少不味くても食べれる食事に、冷えててもクソ不味いビール。
それらを丸テーブルに置いて、和気藹々と今日の成果を話しているはずだった。
なのに目の前にあるのは瀕死の重傷を受けた仲間と石像。涙が溢れてくる。
「仕方ない、ごちそうしよう」
「は?」
不意に少女が何かを呟き、それが俺の耳に届く。
ごちそうって……何をするつもりだよ? 生き残った俺だけに何かするって言うのか……?
こんな場所で飯なんか食えるかよ!! そう叫びたかったが、目の前の
するとそんな俺の心境を知らずに少女は本当に料理を行おうとしているのか、寸胴鍋などを取りだすとその側に吊るし台を置いた。
「待ってて」
そう言うと少女は設置した吊るし台へとコカトリス、オーク、ミノタウロスを1体ずつ吊るした。
直後、道具袋から出されたそれらの首からはポタポタと血がこぼれ始め、地面を濡らしはじめる。
これって、血抜き? そう思っていると少女はコカトリスを吊るした場所だけに鍋を置くと、ぽたぽた落ちる血を回収し始めた。
いったい何をしているんだ? 戸惑う俺を他所に少女は手早く行動を始めた。
モンスターを退治するために振るっていた少し大きめの包丁を握ると、吊るし台の周囲をグルグルと歩き回るようにしながら包丁を握った腕を振るう。
すると瞬く間に吊るされたモンスターたちに変化が訪れた。
「牛、前処理完了。豚、前処理完了。鶏、前処理……完了」
「な、なんだあれ……」
少女の呟きが耳に届き、目の前の光景に戸惑っていると……包丁で切られたのかミノタウロスとオークの体にピッと切れ込みが入り、まるで帯を緩めた着物が一気に床に落ちるかのようにパラリとミノタウロスとオークの体を護っていた表皮が剥がれ落ちた。
表皮が剥がれ落ちたミノタウロスとオークが吊るされた様子は、見たらひと目で肉だと解るようだった。
そこから少し遅れて、コカトリスも羽が一気に抜け落ち地面に散らばると少女は一旦歩くのを止め、吊るされた
「前処理完了。続いて内臓処理を開始」
前処理、内臓処理。聞こえてくる少女の声にまさかと思いつつも、頭の中がそれは違うだろうと訴えかけている。
当りまえだ。何で、こんな危険なダンジョン内で肉の処理を行うというんだ。
ましてや俺に「ごちそうする」って言ってたから肉を捌いたら料理を作るとかいうわけじゃないだろうな?
そんな不安を感じながら見ていると少女は包丁でミノタウロス、オーク、コカトリスの腹を手早く開き、道具袋の機能を使い中の内臓を一気に吸い出させていた。
「――っと、これは大事」
途中、吸い出されていたコカトリスの内臓の中から液体が詰まった袋状の物、それとコカトリスの魔石を回収していた。
オークやミノタウロスと同じように内臓を処理しているわけじゃない?
そんな疑問を抱きながら見ていると少女はこっちを見てきた。
「ふう、下処理完了。ねえ、そっちの仲間集めてくれる?」
「え?」
「石になった人と、打ちつけられた人は別にして集めて」
「いや、でも……」
「はやくする」
「は、はい――っ!」
何をしようとしているのか分からないまま従うべきじゃない、そう思いながら言葉を濁していると少女が威圧したため、慌てるように俺は石になった仲間と何とか生きている仲間たちを集めた。
というか、本当に何をするつもりなんだよ?
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