第2話

 【ある探索者視点】


「くそっ! おい、しっかりしろ!」

「チクショウ! 死ぬなよな!!」


 しくじった! 今回は卸売業者からの依頼を兼ねたダンジョン配信でオーク数匹を狩って持ち帰るだけだった。

 それなのに、下層に到着して少し薄暗い道を移動したところで最悪なことにミノタウロスの番と遭遇してしまった。

 ミノタウロス1頭だけなら、動きを封じればまだ何とか出来る。けど、番は厳しい。

 それを理解しているから合図とともに全員で急いで逃亡した。

 しかし、逃げた先は最悪なことにモンスターハウスの罠が仕掛けらた広い空間。

 そこに居たのはオークリーダーを筆頭にしたオークの群れとコカトリスが数羽、しかもミノタウロスの別の番も居やがった!


『『『『プギャーーーーッ!!』』』』

『『『コケェェェェェェェェエエエッ』』』

『『ブモオオオオォォーーーーッ!!』』

『『モォォォォォォォ~~~~!!』』


 そこから俺たちは必死に抗った。

 だけど、1人、また1人とパーティの仲間がオークやミノタウロスによって吹き飛ばされ、コカトリスのブレスで石化させられ、どうにもならなくなっていく。

 そしてもう残ったのが幼馴染だった俺たち3人になった中、何とか生き残ってやると思っていた矢先に……1人がコカトリスのブレスを受けてしまった。

 ブレスを受けて絶望した表情の中、ブレスを受けた片腕が石に変化し始めていく。

 そんな幼馴染に助かると励ましながらモンスターたちの猛攻に必死に耐える俺たちだったが、限界が近づいて来たらしく……もう1人もオークのこん棒で吹き飛ばされて壁に叩きつけられてしまった。

 それを見て、もう助からないと理解してしまった俺も、心が折れてしまい……膝をついた。そして何となく、生配信状態だったままのドローンを見る。

 あんな状況でコメントを見る暇なんて無かったから見てないけど、きっと色んなコメントが上がっているに違いない。

 そう思いながら、きっと情けない顔をしているに違いないけれど……配信を見てくれていた視聴者に別れの挨拶をする。


「あー……悪い。俺たちはここまで見たいだわ。今まで応援してくれてあんがとな。他のダンジョン配信者の応援、頼むな」


 :マジかよ!?

 :お願い、死なないで!

 :おい、誰か助けに行けよ!

 :いや、無理だろ!?

 :乙、チャンネル登録解除しましたわwww

 :なあこれ、釣りだよな? 嘘だと言ってくれよ!

 :ふざけてる場合じゃねーんだよぉ!!

 :え、ちょ!? トレンド入りしてたから見てたらこんな状況ってマジ!?


 最後の最後に見えたコメント一覧。

 あー、これが最後に見た光景ってやつか……。ちょっと残念だ。

 そう思いながらやってくるであろうモンスターの攻撃を覚悟しながら、ドローンから視線を外して前を見る。

 一応は設定として、配信者の死亡が確認された瞬間に生配信は終了するようになっているけど……トラウマになったら本当に申し訳ないと思う。


『ブモッ、モォオオォォ~~~~ッ!!』

「トドメを刺すのは俺だってやつか? ほら、こいよ……」


 オレの前に進んできたモンスター。それは俺たちが下層に到着して初めて遭遇したミノタウロスの雄のほうだと思う。

 それが鉄の塊のような斧を手に持ち、近づいて……膝をついているからかその巨体に恐怖を感じてしまいながら、静かに目を閉じる。

 痛いのは一瞬だと良いけれど、モンスターにそんな慈悲なんて無いだろうな。

 激しい痛みの中で死ぬか、一瞬で死ぬかなら良いけど……なぶり殺しは勘弁してほしい。


「――邪魔、どいて」

「え? うわっ!?」


 だがそんな俺の耳に小さく、けれど存在感がある声が届き、横に押し退けられる。――直後、ガキンと金属と金属がぶつかる音が響いた。

 以外にも俺の口からは間抜けな声が漏れ、何があったのか戸惑いながら目を開けた。


「いったい、なにが……」


 すると俺とミノタウロスにはさまれるようにして、中学生ぐらいの背をした人物がラフな格好で立っていた。

 俺から見たら、後ろを向いているから顔が判らない。けれど紫かかった長い髪を一本に縛った姿と、さっき聞こえた声で女だと……思う。

 俺の前に立っている女の先には、何かをしたのか振り下ろしていたミノタウロスの斧は地面に突き刺さっていた。


『ブモッ! ブモォォ!!』

「うっさい」

『モッ――――』


 突き刺さった斧を必死に抜こうとするミノタウロスだったが、女は煩わしそうに腕を振る。

 瞬間、ミノタウロスの特徴的な鳴き声が途中で途切れ、首が飛んだ。


「は――?」

「牛肉ゲット」


 くるくるとミノタウロスの首が宙を舞う中、自重に耐えられずこっちに倒れてくるミノタウロスの体だったが……ニュルと吸い込まれるようにして、女の腰に付けた袋に吸い込まれていった。

 ど、道具袋持ちか……! しかも、あれだけのミノタウロスを積載できるレベルの道具袋なのか!?


「残るは牛が3匹、豚が多め、鶏が8羽。……最高。ちょっといい?」

「え、お……俺?」


 女はモンスターハウス内に居るモンスターを見てから振り返り、俺を見た。

 女……いや、顔立ちの幼さから少女と呼んでもおかしくなさそうな見た目をしていたそいつは俺に話しかけてきた。


「そう。これら全部かっていい?」

「かって……え?」

「いいの? ダメなの?」

「あ、ああ……、おねがい、します?」


 いったい何を言ってるんだ。戸惑いながらも返事をすると少女は再びモンスターへと向き直った。

 そして、少女は動き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る