料理人はダンジョン内で日々料理を作る。(仮題)

清水裕

第1話

 ズズズ、ズズズ、とのっそり、ゆっくりと地中を泳ぐ音が僕の耳に届き、小刻みに揺れる振動がボクが眠るベッドを伝い体に届く。

 慣れ親しんだこのリズムは子守唄のようで、ベッドの中での睡眠の質を向上させる。

 とりあえず今日もずっとこのままかと思っていたけれど、トプンと地中を抜けた音と直後にズシンと地面を踏みしめた振動がズンと室内に走る。――どうやら何処かのダンジョンに到着したらしい。

 それを理解し、ベッドから上半身を起こし、ググっと背中を伸ばしながら欠伸交じりに訊ねると相棒に声をかけてきた。


「……ふぁ、何処かついた?」

『ん~、ここは~……岐阜ダンジョンの下層だね~』


 のんびりとした声が部屋中に響くように聞こえる。

 聞こえたダンジョンの名前を枕元に置いていたスマホに入った食材マップアプリに入力。

 すると岐阜ダンジョンで採集できる食材モンスターの情報が表示された。


「お米数種、特産は飛騨ミノタウロス、岐阜コカトリス、美濃オーク、それに地物にコショウもある」

『わ~い、肉だ~♪ 今日はお肉パーティーだ~♪』

「いいね、お肉パーティー。腕がなる。それに今回は調味料もあるのが嬉しい」

『塩だけじゃ味気ないって言ってたからね~。けど肉だけじゃなくて野菜も食べないとね~。何がある~?』

「野菜も色々ある。じゃあ、ちょっと食材かってくる」

『りょうか~い、それじゃあ引きこもって待ってるね~』

「わかった」


 採取道具を手にし、外に続く扉を開ける。

 開かれた扉の外は青い空と見渡す限りの綺麗な草原……ではなく、薄暗い洞窟の中の広い空間。

 ダンジョン内に自生する発光苔の光でほんのり明るい周囲を見ながら、形成された階段を降りきると相棒は階段を引っ込めてボクを見って応援してくる。


『頑張ってね~』

「そっちも、気をつけて」

『は~い』


 ボクの言葉に返事をしながら相棒のは剥き出しとなっていた巨大な頭と手足を甲羅の中にひっこめると甲羅だけの状態となった。

 この時点でカメであるカメ吉の防御力は旧時代に主流だった兵器である核ミサイルの直撃だって防ぐことが出来るレベルの頑丈さとなる。

 だから万が一エルダークラスのドラゴンでも襲ってこない限りは、カメ吉の引きこもり状態は最強の盾となっていた。


「待たせたらダメ、はやくかろう」


 移動していたからカメ吉もエネルギーを消費しただろうし、なによりお肉が食べたい。

 だからとっとと目当ての食材をかってくることにした。

 それに塩味オンリーじゃなくて、調味料となるコショウもあるから久しぶりにパンチが効いた味が楽しめる。


「待ってて、肉」


 呟き、駆け出すと、たどり着いた広い空間を抜ける。

 すると近くを徘徊していた豚――オークとすれ違う。


『ブギャ! ブ――』

「第一食材……、ゲット」


 駆けてくるボクに気づいたオークが握ったこん棒を振り上げてボクを攻撃しようとする。

 だけどそれを無視して走る速度は緩めず、持っていたで振り下ろそうとした瞬間に素早くオークの首を斬り落とし、首ごと時間停止機能が付与されている道具袋に収める。

 道具袋がオークをひっぱるようにニュルンと吸い込みつつ、ついでに壁際に育っていたシイタケを採集。


「ああ、醤油が欲しい。味噌も欲しい。大豆から創るの大変、時間かかる。……時間促進、あったらいいのに」


 塩味だけの肉厚のシイタケも美味しい。

 けど、砂糖醤油の甘辛いシイタケの味が美味しいって聞いていたから試したい。

 地上の醤油は手が出せないレベルの値段だから、ダンジョン内で作らないといけないけど……材料が足りない。


「はあ、悲しい……。ん」


 調味料の不足っぷりに悲しみを抱きつつ走っていると、モンスターの気配が多く感じた。

 モンスターハウスがあるみたいだった。……それと、人の気配。


「カメ吉が下層だって言ってたから、探索者としては実力者のはず。けど、見に行ってみようか」


 決してモンスターハウスで採取できる食材に興味があるわけではない。

 ……でも、気配的にコカトリスとミノタウロスはいるのは分かる。……じゅるり。

 探す手間が省けたと思わないでもないけど、気配がしたほうへと走り出した。

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