第68話(姉視点)
「別にどうもなってないわ。前と同じよ。それよりも連絡してから来なさいよ」
そろそろ来るかもしれないとは思っていたが、やはり急に来られると予定が狂う。もっとゆっくり華を愛していたかったのに、忍への対応のため時間が削られていることが気に食わない。
「……それは、悪かったと思う。でも流石に前と同じは無理があるだろう?」
「何が? というか貴女、顔が赤いわよ。何かあった?」
別に、前と変わったことなんてないのに何を言うのだろう? 強いて言えば愛を伝える手段は前より増えたが、関係が変わったわけではない。そんなことよりも忍の顔が赤いことの方が気になった。別に部屋が暑いわけでもないのに。
「君がそれを聞くのかい? 何かあったのはそっちだろう」
「はあ? 意味が分からないわ」
「と、とにかく、次からは連絡お願いしますね!」
「……あ、ああ、そうだな。次からはそうしよう」
「ぜひ、お願いします。とりあえずお姉ちゃんは夜ご飯、作ってくれる?」
「ええ、分かったわ」
よく分からなかったが話がまとまったようなので、気持ちを切り替える。まあ、来てしまったものは仕方ない。忍の分も含めて晩御飯を作ることにし、二人を置いてキッチンに行く。食材に余裕があったので、二人分の予定を三人分に変更することで事足りそうだ。
キッチンで作業を始めると二人がこそこそと何か話していることに気づく。どうしてだか二人とも若干頬が赤くなっている。華が忍に靡くとは思えないし、逆もまた然りだが、内緒話をされるのは気分が良いものではない。
「ちょっと、忍。華に余計なことを話してないでしょうね?」
「そんなことしていないさ。いいかい、華君。もし優君に何かひどいことされたらすぐに私の家に来るんだぞ。何とか守ってみせるから」
「ひどいことなんてするわけないでしょう? 全く」
本当に失礼な奴だ。このまま二人でいさせたら何を吹き込まれるか分かったものじゃない。そう考えながらも、華に適当なものを食べさせるわけにはいかないので、できるだけ早く、それでいて丁寧に料理を終わらせた。
皆で手を合わせ、挨拶をしてから食べ始める。二人の反応からして、上手くできたようだった。いつもより賑やかな食事を終え、食器も洗い終えた。寝る準備も終え、後残っているのは華と愛し合うことだけだ。そのためには忍に帰ってもらわないといけない。
「じゃあ帰ってもらえるかしら?」
「何故、と聞くのは野暮かな?」
「一刻も早く華を愛でたいからに決まっているでしょ」
「めっ」
「ちょっと、お姉ちゃん?!」
「なあに、華?」
急に慌てた声を出す華は可愛かったが何にそんな慌てているのか分からず、問い返す。
「なあにって、そんなこと、人に言っちゃだめだよ」
「どうして? だって、私の体は貴女のものだし、貴女の体は私のもの。恥ずかしい要素なんて何もないわ」
「ん~、もう、お姉ちゃんは黙ってて!」
「あ~、何と言うか、華君は苦労しそうだね」
「そんなことさせないわ。そんなこと考える暇もないほど幸せにしてm——」
顔を真っ赤にさせた華が私の口を手で塞いだ。何がそんなにだめだったのだろうか? そんなことを考えていると忍が突然笑い出した。突然のことに私も華も驚いていると、一頻り笑い終えた忍が話し出す。
「いやあ、良かった。こんなに表情豊かな優君を見たのは初めてだ。——華君、これからも優をよろしく頼むよ」
真剣な表情で忍はそう言った。貴女にそんなこと言われる筋合いはないと言いたかったけれど、華に口を封じられていて言えなかった。華は一度頷くと『はい』と力強く答える。慈愛に満ちたその笑顔に得も言われぬ感情がお腹の底から湧き出したのを感じる。
忍が出ていき、扉が閉まったのを確認した後、私はすぐに華を持ち上げ、ベッドに運ぶ。幸い明日は土曜日、お休みだ。いろいろごねる愛らしい華を可愛く思いながら、今日も心行くまで、華を可愛がることにした。
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