第66話




「う~ん、あれ?」


 私はどうしてベッドにいるんだろう? それに自分の体を見てみると、ほとんど何も着ていなかった。混乱しつつも何とか記憶を呼び起こす。確か、お姉ちゃんに告白してその後……そうだ、思い出した。私、お姉ちゃんとエッチして、そのまま気を失っちゃったんだ。


「あら、華。起きたかしら?」


「あ、お、お姉ちゃん」


 私が起きたのに気づいたのだろう、お姉ちゃんが部屋に入ってきてそう言われる。私はとっさに布団を上まで被った。裸なのとさっきのことで、恥ずかしくて顔を見れなかったのだ。そうしたら、お姉ちゃんは悲しそうに『ねえ、華。顔を見せてちょうだい? 隠されたらいやだわ』と言いながらこちらに近づいてくる。


 悲しそうな声を出されては逆らうこともできず、布団の下からちょこんと顔を出す。上気しているのが自分でもよく分かり、とても恥ずかしかったがお姉ちゃんの嬉しそうな顔を見て、良かったと思う。近づいてきたお姉ちゃんは両手で抑えこんだかと思うと、そのまま軽くキスをしてくる。すぐに唇が離れると若干の寂しさを覚える。そんな私の目をまっすぐ見ながらお姉ちゃんは言いよどむことなく『もう一度エッチする?』と聞いてくる。


「うぇっ? い、いや、まだいいんじゃない?」


「……いやだった?」


「ううん、全然そんなことない。でも……恥ずかしいから」


「……そう。まあ、まだまだ先は長いのだし、焦らずゆっくりと堕としていくことにしましょう」


「うん、何て言ったの?」


「一度お風呂に入るか、と聞いただけよ。 一応体は拭いたけど、お風呂に入った方がいいでしょうから」


 ん? どこか引っ掛かったものの、とりあえず一人になりたかったので、頷く。すると、お姉ちゃんはばっと布団を引きはがした。突然のことで反応できないでいると、お姉ちゃんはさっきのように私の背中と膝の裏に手を入れ、私を持ち上げる。


「えっ、えっ、ちょっと待って」


「ほら暴れないの。危ないでしょ?」


 まるで私の方が聞き分けの無い子どものように諭される。なんだか最近抱っこされてばっかりな気がする。何度も見られているはずなのに、お風呂以外で見られるのは恥ずかしくなってしまい、せめてもの抵抗として腕で大事なところを隠したが、あまり意味はなかったように思える。


 お風呂場まで荷物のように運ばれていき、優しく床に降ろされる。まだ、お姉ちゃんが残っているのにドアが閉められる。考えてみたら、別に一人で入るなんて言ってなかったことに気づく。でも流石にあんなことがあった後で、一緒に入るのは恥ずかしいし冷静になりたい時間が欲しかった。


「あの、今日は一人で入りたいなあ、なんて」


「……あのね、華。貴女、気を失ったのよ。お風呂でもそうなったらどうするの」


 確かに? 若干納得できない気もするが、よく考える間もなく浴場に追い立てられ、反論できなかった。こうなってしまった以上は仕方ない、ちゃちゃっと洗って先に浴槽に入っておこうと思うも、すぐにお姉ちゃんが入ってきてしまいできなかった。シャワーを取られ、お姉ちゃんに髪や背中だけでなく全身くまなく洗われてしまう。


「ん、お姉ちゃん、そこは自分で、洗、んう」


「大丈夫だから、私に任せなさい。しっかり洗ってあげるから」


 隅々まで洗われて浴槽に浸かるときにはすでに息も切れ切れになっていた。お姉ちゃんは自分でさっと洗って、いつものように私の後ろから抱きしめるようにして入ってくる。あんなことをした後だから背中に当たる柔らかな感触に意識が向いてしまう。


「ほら、華、こんなに息が上がってるじゃない。一緒に入ってよかったわ」


「それは、お姉ちゃんが……」


「私が何?」


「……なんでもない」


 もう、お姉ちゃんのせいなのに。そんな風に開き直られると怒る気にもなれない。そもそも別に嫌なわけじゃないから当然なんだけど。お姉ちゃんと一緒にいると心臓がドキドキして興奮しているのに、安心できて落ち着く、そんな不思議な感覚だった。そんなことを思っていると、お姉ちゃんが私の肩に顎を乗っけてくる。


「どうしたの? お姉ちゃん」


「ん? ただ、幸せだなあと思って。この腕の中に華がいるのが嬉しいの」


 そう言いながら私のお腹の前に手を回してくる。その手を取りながら私は答えた。


「私も。幸せだよ」


 こんな幸せな時間を送れるなんてかつて考えたことがあっただろうか。でも、これは確かに現実なんだ。これからも不安に思うこともあるかもしれない、それでもきっと最期までお姉ちゃんと一緒にいる。それだけは信じることができた。そうして、私は体の向きを変え、後ろを振り返るようにして唇を重ねた。


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