第53話(姉視点)



 最近華が私に遠慮しているような気がする。具体的に言えば、体育祭の日からだろうか? いつもよりどことなく会話がぎこちなかったり、何かと私のしたいことを聞いてきたりしてきた。何かあっただろうか? それでもいつものキスはしているし私から離れるわけでもなさそうなので、華から何か言わない限り放っておくことにした。流石に何か月も続くようなら手を打たなければならないが、今はまだそこまで深刻に考えることではないだろう。


 そう思っていた昨日のこと。華は忍と話すことがあるからと二人で出かけてしまった。私もついていきたかったがなぜか華が許してくれず、仕方がないので尾行して様子を確認した。幸い行ったところはカフェだけだったので安心したもの、何を話しているかまでは聞けなかった。そこで昨夜、華に忍と何をしていたのか聞いてみたところ何やらはぐらかされてしまう。追求してもまだ考え途中だからと結局答えてくれなかった。


 そして今日も一人で考えたいことがあると、私を置いて図書館へ行ってしまった。昨日のように尾行して様子を確認したかったが、お姉ちゃんはついてこないでと念を押されたのに、ばれてしまうとまずいと思い断念する。代わりに念のため華に内緒でスマホに入れていたGPSで華が図書館にいることを確認した。


 華が出かけているうちに、私は事の真相を知るために忍へ連絡を入れる。忙しいだなんだと言っていたが、無視してすぐに予定を決める。華が早く帰ってきたときにばれないように私たちの家の上階の忍の部屋で話し合うことにする。


 すぐに支度を整え家を出る。階段を上っている間、後から後から不安が湧き出て止まらなかった。どうして、私に言えないの? 私より忍の方が頼りになると思ったの? もしかして、私のことを嫌いになってしまったの? そんな考えが何度も頭をよぎるが慌ててかぶりをふって思考を中断する。私は華を信じると決めたじゃないか。でも、もしもの時を考えなければ……。


 いつの間にか忍が目の前に立っていた。どうやら気づかないうちに部屋の前まで来ていたようだ。ドアを半開きにしたまま、忍は呆れた目でこちらを見てくる。


「何をしているんだい? すぐに話しあうと言っていたのに、部屋の前で突っ立って」


「っつ、何でもないわよ。そんなことよりさっさと始めるわよ」


「はいはい、仰せのとおりに」


 どこか投げやりな様子の忍と一緒に中に入る。部屋の中は相変わらずものが少なく生活に必要最低限なものしかない。リビングの質素な椅子に腰かけると、『ジュースでいいかい?』と聞かれたので、『私はコーヒーで』と答える。忍が二つのコップを持ってきて、椅子に座ってから話し始める。


「それで、今日は一体何の話だい? まあ、大方予想はついているけど」


「ええ、それなら話が早いわ。昨日の華との話よ」


「そうだろうと思ってたよ、昨日の——いや、その前にそのスマホに映っているのは何だい?」


 忍は私が机に出していたスマホを指さしてそう聞いてくる。


「何って、華の現在地よ」


 華がいつ動くか分からない以上、常に位置を確認しないといけないのは当然のことなのにどうしてそんなことを聞くのか。


「うわあ。すうー、もちろん華君には許可を取っているんだよね?」


「華が警戒しないように内緒にしているわ。前に感づかれてしまったことがあるから過信はできないけど。そんなことより早く本題に入りなさい」


「ええ……。ああ、うん。本題、本題ね。——悪いけど、昨日のことは私の口からは言えない」


「なぜ? 私に知られるとまずい話なのか?」


「落ち着きたまえ。そういうわけじゃない。ただ華君の名誉のために私からは言えないってだけだ。おそらく今日か明日あたりに華君の方から話があるだろう」


 少し取り乱した私に対して、あくまで冷静に、諭すように話しかける。


「ふう。そうね、感情を乱してもいいことはないわね」


「そうだとも。と言うかこれは君のせいでもあるんだぞ。君が体育祭のとき告白されたことを華君に隠しているから」


 告白? ああ、そう言えばそんなこともあったわね。些末なこと過ぎてすっかり忘れてしまっていた。まさか、華にその場面を見られていたのか。ただそれとこれとが何の関係があるのだろうか。


「それが昨日のことに関係していることなのね?」


「すまない、忘れてくれ。つい口から出てしまっただけだ。もうこれ以上は言えない、華君から続きを聞いてくれ」


「そう、分かったわ。じゃあ、また足枷を用意してくれるかしら?」


 やっぱりこれしかない。前回だって最後以外は上手くいっていた。それに華だってそうしてもいいと言ってくれた。だから今回も、いや今回こそは最後まで上手くやってみせる。






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