第50話




「ついに明日から中学校が始まるね。なんだか少し怖いな」


 春休みも特段何かあるわけもなく、たんたんと時は過ぎていった。中学校に行くのなんて慣れきっていたと思っていたが、存外緊張する。何度もやり直してきていたからか、新しいことが怖くなってしまったのだろう。そんな不安から寝る前にポツリとそう零す。


「心配することないわ。今回はようやく私も一緒に通えるから何かあったらすぐに助けに行けるし、もし辛くなったら行かなくたっていいのよ。私が守ってあげるから」


 確かに考えてみれば、お姉ちゃんと一緒に中学校に通うのも今回が初めてか。そうだな、お姉ちゃんと一緒ならなんでも大丈夫な気がする。


「ありがとう。そうだね。守られるだけにならないよう頑張るから、監禁はまた今度ね。前はこのタイミングだったもんね」


「……分かっているわ。次に監禁するときは先に貴女に話してからにするから」


「うん。もうお互いに勝手なことはしないで、何かあったらすぐに相談しようね」


「ええ。そろそろ寝ましょうか。明日遅れるのも面倒だわ」


「そうだね、おやすみ」


「おやすみなさい」


 感じていた不安が晴れた。やっぱり話し合うことが大事だ。いつもお姉ちゃんは私を抱き枕のようにして眠るから、今はいいけど夏に近づくと暑苦しいだろうななんて思いながら、眠りにつく。


 ~~~


 入学式もつつがなく終わった。クラスでは知らない人だけだったが、何とか自己紹介をすることができた。今日の予定が終わったので、お姉ちゃんと一緒に帰ろうと思い、いつものごとく別のクラスにされたお姉ちゃんのもとに向かう。


 そこで私が目にしたのは大勢の人に囲まれるお姉ちゃんの姿だった。確かに、ほとんどが同じ小学校から来ているのに別の小学校から来た私たちは転校生のようなものだろう。それに加えてあの美貌、人が周りに集まるのも納得だった。それを見ているとどこかもやもやした気持ちを感じた。ただそうは思っても邪魔してはいけないと、踵を返して一人帰ろうとする。すると誰かに手を引かれる。


「どうして、先に帰ろうとしているの?」


 お姉ちゃんだった。


「お姉ちゃんこそ周りの人はどうしたの? 私は一人で帰るから」


「華より大事なことなんてあるわけないでしょう? そんなこと気にしなくていいから一緒に帰るわよ」


 そう言ってお姉ちゃんは私の手を引いたまま、教室を出る。お姉ちゃんのクラスメートはまた明日、などと言っていたがお姉ちゃんが何も返事をしないので、申し訳程度に頭を下げる。学校を出たころにはもう、あの時感じていたもやもやはなくなっていた。


「お姉ちゃん、良かったの? 皆お姉ちゃんと話したがっていたのに」


「別にどうでもいいわ、そんなこと。華以外の人に興味なんてないもの。支障が出ない程度には関わるけど、それ以上関わるつもりはないわ」


「ふ~ん、そうなんだ」


「何よ、華。なんだか嬉しそうね」


「えっ。そう? そんなことないけど。まあそういうことならこれからも一緒に帰ろうね」


 嬉しそうだなんて変なことを言うお姉ちゃんだ。でもまあ、それなら一緒に帰ることができるだろう。


 家についた後、いつものようにお姉ちゃんと一緒にお風呂に入る。お風呂が狭くなるということもなく来た頃と同じように入れてしまうのが最近の悩みだ。中3まではほとんど身長は変わらなかったから仕方ないが高校に入ってからは成長できるように祈る。


 それからは晩御飯だ。最近は私も料理をするようにしている。お姉ちゃんを支えられるようにこういう家事ができるように頑張っているのだ。と言ってもお姉ちゃんの方が美味しい料理を作れるので役に立っているかは分からない。お姉ちゃんは華の作る料理はなんでも美味しいと言ってくれているが、それに甘えずもっと精進しないと。





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