第37話
「ねえ、華。さっきからどうしたの? 何か悩みでもあるの?」
あの後いつものように一緒にお風呂に入り、ご飯を食べた後にそんなことをお姉ちゃんに聞かれる。考え事をしていたせいで、私の様子がおかしかったのだろう。一度考えてしまったことが頭から離れず、ずっと頭の中をぐるぐるしている。でも今、お姉ちゃんにこのことを相談しても一蹴されるどころか逆に拘束が強まってしまうかもしれない。
「ううん、何もないよ。どうして?」
「いや、少し気になっただけよ」
お姉ちゃんにもばれてしまうなんてかなり表情が顔に出ていたか。それでもこの考えを捨てることができない。お姉ちゃんが私を見てくれているうちに私から離れるという考えを。でもお姉ちゃんから逃げられるイメージが湧かない。
「ねえ、お姉ちゃん。お姉ちゃんにとって私は何? ペット?」
「何を言っているの。そんなわけないでしょ。私の大切なたった一人の妹よ」
「でもさ、今やっていることってペットと変わらないじゃん。お姉ちゃんは私を信じてないんでしょ?」
逃げられないのは分かっているから、わざと怒らせるようなことを言ってみた。これでお姉ちゃんが怒って離れてしまうかもしれない。それでも、いつかお姉ちゃんに見捨てられるより、自分でそうさせた方が幾分ましだと思うから。
「そんなことはないわ。華を信じているに決まっているでしょう」
「じゃあどうして私を監禁しているの? 私は死なないって言っているのにそうしなかったら私が死ぬと思っているのと同じじゃん! 私が何を言っても聞いてくれないじゃん」
このことは少し前から考えていたことでもあった。お姉ちゃんが私に意見を求めるときは聞いてくれるけど、私の言うこと自体は聞いてくれないと思っていた。この人生に入ってから特にそんな風に感じる。ただ、別にそんなに怒っているわけじゃない。お姉ちゃんに嫌われたかったからそんな風に言っただけだ。するとお姉ちゃんはしばらく黙った後ゆっくりと口を開く。
「どうして? ——それは私が言いたいことよ。どうしてあの時嘘をついたの? どうしてあの時死んだの? どうして私をいつも置いていくの? ねえどうしてなの?」
お姉ちゃんが堰を切ったように話し出す。今まで抑えていたものが溢れたかのようにお姉ちゃんは続ける。
「どうして私に相談してくれないの? どうして、どうして、どうして? でもいいの、いいのよ、華。だからあの時私は決めたの。もう華に理由は聞かないって。どうせ分からないし、もし理由があったとしてももう死んでほしくなかったから。ねえ華、私は間違っているかしら? 貴女を信じていない? ——ええ、そうかもしれない。でも、ただ貴女が生きてさえいてくれればいいの、貴女を死なせたくないの」
お姉ちゃんは私を包むように上から抱きしめてくる。そんな風に思っていたのか。確かに私もお姉ちゃんに自分の意思をしっかり伝えたことがあっただろうか。私たちはやっぱり対話が足りなかったのだろう。だから……痛、痛たたた。ねえ、ちょっとお姉ちゃん力が強すぎるんじゃないかなあ。
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん苦しいよ」
「もう一人で逝かないで。ずっと一緒にいるって言ったのは貴女じゃない」
ずっと一緒? その言葉を聞いた瞬間、昔のことを思い出す。
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