第36話
部屋からほとんど出ないまま、1ヶ月が経過してしまい、こんなおかしな生活にも慣れてしまった。監禁されてから初めての日曜日に大きな音ともにお姉ちゃんの部屋がリフォームされ、 その日から日中はお姉ちゃんの部屋で過ごすことになった。朝は、お姉ちゃんとともに起きて、ご飯を一緒に食べる。それからお姉ちゃんの部屋に連れられて、お姉ちゃんが帰ってくるまでトレーニングやピアノを弾きながら過ごす。お昼ご飯にはお姉ちゃんが作ってくれたお弁当を食べ、帰りを待つ。お姉ちゃんが帰ってきてからは一緒にお風呂に入ったりご飯を食べて、話しながら一緒に眠りにつく。それを繰り返すだけの毎日だった。
この1ヶ月お姉ちゃん以外の人と会うことも外に出ることもなかったけど、案外辛くなかった。お姉ちゃんの部屋に外からしか開けられない鍵が取り付けられたおかげで、足枷なしで過ごせるようになったことが大きかった。ただ、お姉ちゃんがいない日中はトイレに行けないのだけが辛いと言えば辛いかもしれない。普段はそこまで問題にならないけど、生理の時はお姉ちゃんに学校を休んでもらい、ことあるごとに運んでもらったりもした。
そんなこんなで、今日は久しぶりにお姉ちゃんと二人で外出している。日の光を浴びないとビタミンDだかなんだかが足りず不健康になってしまうらしいとお姉ちゃんが外出しないかと誘ってくれたのだ。あんなに私を逃がさないようにしているのに外出させてくれるのかと思ったけど、案の定完全に自由というわけではなくお姉ちゃんが常に私の手を握っている。もうそんなことしなくても逃げたりしないのに。
「華。何か足りていないものはない?」
「特にないと思うけど、そろそろ学校に行きたいな」
「それはだめよ。他のことなら何でも叶えてあげるから、部屋にいてちょうだい。これからは土日は外出できるようにするから」
「はいはい、言ってみただけ」
そんな軽口をたたきながら散歩する。久しぶりに外に出たからかいつもより疲れるのが早く、公園のベンチで少し休憩する。公園では、多くの子どもたちや親子がボール遊びなどをして遊んでいた。皆幸せそうで、本当はそんなことないだろうけど何も不安なんか持っていない、そんな風に見えた。そんな光景を見て、私はお姉ちゃんにある質問をする。
「ねえお姉ちゃん、いつまでこの生活を続けるつもり? お姉ちゃんが大学とか行ったり会社に行くようになったりしたらもうこんなことできないよ。そうなる前にさ、解放してくれないと私生きていけなくなっちゃうかも」
「何を馬鹿なことを言っているの? 華が一人で生きていく必要はないのよ。大丈夫。もう働かなくたって一生生きていけるだけのお金はあるから、華が働く必要も何もないの。生きてさえいてくれればいいの」
「……そう、分かった」
部屋に閉じ込められてから一人で考える時間だけはたっぷりあったからいろいろなことを考えていた。今まで、避けてきた自分に向き合う時間もできた。そしてもうお父さんたちのために生きることはやめた。娘として、生きていて欲しいとは思うがそれだけ。もうお父さんたちの期待に応えるために頑張ったり、そのために死んだりなんかしない。お互いに必要としていないのだ。確かに家にいるはずなのに私に会いにきていないということはそういうことだろう。だけど、私にとってお姉ちゃんはそうではない。
現状私はお姉ちゃんのお荷物にしかなっていない。お姉ちゃんはああ言ったけど、それはきっとずっとじゃない。私はお姉ちゃんがいないと生きていけないのにお姉ちゃんはそうじゃない。いつかお姉ちゃんもお父さんたちと同じように私を見なくなってしまうのが怖い。見捨てられてしまうのが怖いのだ。
それから、私はお姉ちゃんが話しかけてくれたのに上の空のままだった。家について、部屋に戻った後も考えていた。いつお姉ちゃんが私を邪魔だと思うか、不要と判断してしまうか。そうなってしまったら私はもう生きていくことはできないだろう。だからお姉ちゃんが私を見捨ててしまう前に、私の方から離れないと。
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